ひみつの診療所
小さな村の診療所で働く医者、坂本は村の駐在である堀越に淡い恋心を抱いている。ある晩、高熱を出した堀越が診療所に運び込まれ、坂本は一晩付きっ切りで看病をすることに…。二人っきりの夜の診療所で起こった秘め事とは…
「え?駐在さんが?」
僕は、小さな村の診療所に勤めている。
普段、患者さんは年配の方や子どもが多いんだけど、時々こうして救急の患者さんがやってくることがある。
しかも、今日の患者さんはこの村唯一の警察官である堀越さん。
村の人が偶然交番の前を通ったら、ぐったりしているところを見つけたんだとか。
「いつでも大丈夫です、お待ちしてます」
村の人に運ばれて、どうやらもうこっちに向かっているらしい。
僕は電話を切って、急いで迎え入れの準備に取り掛かった。
*****
「…40度ジャスト」
「…マジすか…」
診療所の小さなベッドに、ガタイのいい堀越さんが横になっている。
点滴を打って、解熱剤も飲ませて、運ばれてきたときよりは具合もよさそう。
「こんな状態で、戻るわけにいかないでしょう。一晩ここで過ごしたらどうですか?」
「はい…そうさせてください…」
カルテを整理して、一息ついた。
後ろを振り向くと、よほど疲れていたのかすでに寝息をたてている駐在さんの姿があった。
「…寝ちゃってる…」
無防備なその表情を眺めながら、思わず笑みがこぼれる。
言葉にしたことはないけれど、僕は彼のことが好きだ。
何かと僕のことを気にかけてくれて、パトロールのたびにここを訪れては声をかけてくれる。
たまに二人でお茶したり、他愛のない話をすることが、僕にとっての心の拠り所になっていた。
意外と長いまつ毛。
健康的な色の肌。
思わず、触れたくなって手が伸びた。
指先を頬で撫でると、胸が高鳴った。
「…ちょっとくらい、いいかな」
小さな悪戯心が、僕の中でうずいた。
今夜の僕は、何か変なのかもしれない。
寝ている駐在さんの唇に、そっと口づける。
やわらかいその感触を味わったら、もう後には戻れない気がした。
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