寂しい雨

・作

双子の兄弟の、理斗と由斗。雨が降る日の科学準備室で、理斗は由斗に「縁を切ろう」と告げられる。しかしその言葉には続きがあって──。似ているようで似ていなかった双子の、愛と恋がすれ違い、そして混じり合う物語。

 理斗の言葉は、僕には理解ができなかった。
 でも、頭のなかでは処理できなかったくせに、鼓膜を震わす音のせいで理解してしまったみたいだ。
 きっと今日の天気がまるで彼の心のなかみたいな、じっとりとしてまとわりつくような雨だから。

 科学準備室のガラス窓につく霧のような水滴が、冷や汗のように流れた。
 僕は雨があまり好きじゃない。というか、べつに何とも思っていない。濡れるのは嫌だなあっていうくらい。でも理斗は雨が好きだと言っていた。

 1つの卵子を分けた双子なのに、天気の好みも、朝食に食べるものも、宿題をちゃんとやるかも、僕たちはバラバラだった。
 ただひとつ、お互いを愛していたのは同じだった。いや、同じだと思っていた。

 でも理斗は違った。
 理斗が僕に抱いているのは、愛じゃなくて、恋だ。
 しかも僕には考えられない選択を口にした。

「由斗、俺たち、縁を切ろう。それで、卒業したら結婚しよう」

 霧雨なのに、それは洪水を起こさんばかりに吹き荒れていた。
 開いた口から声が出る隙も与えず、理斗は続けた。

「嫌なら、これを一緒に飲んで」

 コルクで蓋をした試験管のなかに閉じ込められた、青空色の液体を揺らした。
 僕は彼のことが、わからなくなってきた。

*****

「俺はずっと由斗としたかった」

 理斗は教科書を音読するみたいにそう言った。
 なにを? 結婚を? それとも、こんな乱暴な性行為を?

「~~っ、アッ、やだ、やだ、やめ……っ、ひッ」
「嫌なわけないだろう。こんなに立ち上がらせておいて。こんなに濡らしておいて」

ぐにぐにと指の腹が充血した肉に食い込む。こねて、鈴口を転がして、先っぽをピンと爪先で弾く。
 痛みを感じるはずの刺激なのに、気持ちよかった。それも、かなり。

 全身が熱くて、まるでマグマのなかに落とされたみたいで、体を動かすだけでもジンジンと響く快感に変わる。青空色の液体なのに、まるで砂漠の砂みたいに熱を広げていた。

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