ポップコーンの魔法
俺は幼なじみの同級生、駒形理(こまがたおさむ)から10年間も好きだと言われ続けてきた。俺も理が好きだと自覚し、3か月前から付き合い始めていた。互いが就職活動で忙しく、会えない日が続いたそんなある日、2人で恋愛映画を観たのだが、理の思惑を俺は察してしまい…。
10年間も「好き」と言い続けるって、どんな気持ちなんだろう。
隣の席で映画を見ている男の横顔をちらりと見る。
ツンツンした短めの髪、これといった特徴のない顔だけど、話したり笑ったりすると表情がくるくると変わってわかりやすい。
犬みたいだ。元気で、人を見かけると寄ってくる大型犬。
俺の幼稚園からの幼なじみ、駒形理(こまがたおさむ)だ。
理から初めて好きだと告げられたのは小学6年生のとき。
俺も理は好きだ。好きだし、気が合うからずっとつるんでこれたわけだし…と思った。
「俺も理は好きだよ」
「ほんとうに?」
頷くと、きらきらとしたまなざしを向けられる。…犬だったなら大きく尻尾を振ってそうな勢いだ。
「俺の好きってこういうことなんだよ」
理の太くて無骨な指があごに触れたかと思うと…、キスをされていた。
うれしそうな、少し困ったように笑う理の顔が近すぎて、俺はしばらく固まっていた。
でも、理の指の震えやスイカにかぶりつくようなキスだけは、今でも覚えている。
あの日をきっかけに理から「好き」と言われ続けるようになったのだ。
手元のポップコーンを口に入れる。
理の「好き」はポップコーンみたいなものだと思う。軽くて食べやすい。けれど、ポップコーンだってたくさん食べればお腹いっぱいになる。
俺は理の「好き」っていうポップコーンを与え続けられて、気付けばポップコーンで埋もれていた。
…俺、たぶん、理が好きなんだ。
そう自覚して、幼なじみから彼氏に変わったのは3月前のこと。
桜が満開だった。
*****
「ごめん! 観る映画の選択、間違えたな」
理が両手を合わせて頭を下げた。俺は笑って、いいよ、と答える。
「SNSで評判よかったから期待したんだけど…、俺、ダメだわ。ずーっと背中がむずむずしてた」
「理は恋愛映画よりアクション映画だろう? なんでこの映画を選んだのかなあ」
理は「ずーっと」をかなりためて言った。本当にむずむずしていたんだろうな。
頻繁に鼻の頭をかいていたから、映画に集中できていないことはうすうす気付いていた。
「なんでって…、俺もロマンティックな気分になれるかなーと思って」
注意された犬のように、理はしゅんとしている。
「ロマンティックって…柄じゃないよ」
「うん。そうだけど、そういう気持ちになって、そういうことしたいなーって思ってさ…」
…そういうことって。つまり…、恋愛映画でしていたようなこと、か。
就職活動でお互いに忙しく、ここ1か月ほどはほとんど会えないでいた。だから、今日は貴重な1日なのだ。
「…うちに来る?」
理は目を大きく見開き、顔が赤くなる。…かと思うと、にっこりと笑った。俺には理の周りがぱあっと明るくなったように見えた。
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