三日月の夜

・作

美月(みつき)は年下の健太(けんた)と暮らしている。仕事で7日連続勤務を終えて帰ってきた健太は元気がなかった。玄関で健太に抱き締められる美月。そのまま動かない健太から「ご飯より美月がほしい」と言われて美月は…。三日月の夜の甘いお話。

玄関からカチャカチャと鍵が差し込まれる音が聞こえた。
一緒に暮らしている健太(けんた)だ。夕飯の盛り付けが終わるタイミングで帰ってくるなんて、健太はラッキーだと思いながら玄関へ向かう。

「おかえり…」
ただいま、と返ってきた健太の声は元気がない。

「夕ご飯、できてるよ。今、用意が終わったばかりでね…」

ぼーっと立っている健太に手を伸ばすと、覆いかぶさるように抱き締められた。ちょっとだけ丸まった背中に手を回す。

「健太。どうかした? 仕事で何かあった?」

うーん、という健太の声は魂が抜けた感じに聞こえた。
健太の息が首筋にかかる。夏の夜の気温が残っていて息も服も熱い。

「美月(みつき)の体、気持ちいい…」
「あー、今日は家にこもっていたから冷えてるかな。僕には健太が湯たんぽみたいだよ」

ぎゅっとされて、僕も健太の背中に回した手に力をこめる。そして、そのまま一歩も動く気配のない健太の背中を軽くたたいた。

「健太、部屋に行こう」
「靴の裏に根っこが生えた…。ここから動けない」
「何を言ってんだよ。ご飯食べると元気出るよ?」
「…ご飯より美月がいい」

僕の首に鼻をすり寄せてくる。くすぐったくてもう一度、健太の背中をぽんぽんとした。
僕より3歳年下で社会人3年目の健太は、今年の春に勤務先の店長に昇格した。
会社は人員削減を進めていて、店舗はどこも人手不足。だから、健太の連続勤務の日数は長くなるばかりだ。

「7日連勤で疲れてるでしょ」
「美月が欲しい」

美月が不足してるんだよー、と小さな声で言われて、胸の奥がきゅっとなる。

「…うん。健太に無理のないように、…して、いいよ…」
僕が頷くまで動きそうにない気がして、そう答えた。

少し汗ばんだ健太の首筋に唇を寄せる。
この7日間健太と触れ合えなくて、寂しいと思っていたのだから。

*****

健太に抱き上げられ、そのままベッドまで運ばれた。間接照明のほの暗い光の中で、お互いに服を脱がし合う。
健太の熱い手のひらで腹を撫でられて気持ちよくなる。健太が繰り返し触れたところから高い体温がじわじわと広がり、健太と僕の温度がならされていく。

「ふ…、ちょっと…、くすぐったい」

健太の指の先がおへそにかかり、僕は身をよじった。

「美月の体、シャーベットみたい」
「どういう例え方だよ、それ」
「冷たくて柔らかい」

意味がわからないと言おうとして、唇を塞がれた。軽いキスが少しずつ深くなる。
舌から与えられる刺激と、体をなぞる指からの刺激で体の温度がどんどん上がっていくのがわかる。

健太の唇を耳の下に感じた。そこからゆっくりと、胸や脇腹にキスを落とされる。

「あっ…、けん、た…」

敏感になった体にキスを受けるたびに自分自身の欲望が膨れ上がる。僕は我慢できなくて健太の首に手を回した。

「も…う、早く…、…」
健太が欲しいと小さな声で言うと、健太は笑って頷いた。

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