花火は君と一緒に

・作

圭(けい)は同じ会社に勤める井沢と付き合って5年になる。その井沢と花火を見に行く約束をすっぽかして家でくつろいでいると、井沢が迎えに来た。会社で井沢に関する話を聞いた圭は動揺を隠せない。井沢に車で連れ出された圭は自分の気持ちをごまかすことができずに…。花火の夜の甘々な話。

ピンポン、ピンポンと玄関チャイムが突然鳴った。

仕事から帰ってきてすぐにシャワーを浴び、蒸し暑さから解放されてほっとしていたところに鳴ったチャイム。
俺はどきっとした。

こんな時間に誰だろう? 宅配便が来る予定はない。
それに花火を見るという井沢との約束時間はとうに過ぎている。いや、井沢は絶対に来られないし、ここには来ないほうがいいんだ。
それからあとは…と考えているあいだにもチャイムは途切れることなく鳴らされる。

これ以上鳴らされたら近所迷惑になってしまう。Tシャツにハーフパンツという格好で俺は慌てて玄関に向かった。

扉を細く開け、誰なのかを確認しようとして…、ガッと大きくドアが開けられた。ドアノブを掴んでいたから、体がひっぱられてこけそうになる。
「わ…、ぷっ…」
ぽすっと優しく抱き留められ、ほのかに甘い香りにびっくりして顔を上げた。

「いるなら返事くらいしろよ。しかも約束の時間を過ぎているっていうのにその姿って…。まあいいか」
井沢の男前の顔が目の前にあって、心臓が跳ね上がる。

「…! なんでここに!」
「花火を見るって約束していたのに忘れたのか…?」
「え、いや…、だって、井沢は残業してただろう」
「約束の時間30分前に終わらせたよ。…車だから服装はどうでもいいか。ほら行くぞ」
「え?」

井沢は慣れた手つきで靴箱の上に置いている部屋の鍵を取り、俺の代わりに閉める。そして、井沢に体を抱え込まれるようにして、駐車場の横に止められている車に押し込まれた。

*****

「花火がよく見える場所を見つけたんだ。車の中で見られるから飲みものとか、ちょっとした食料を買っておいたのになあ…。まさかすっぽかされそうになるとは…」
ハンドルを握りながら外国映画のように大げさに肩をすくめる。

「あー…。だって…、なんか大切なお得意様に向けた資料を作っているって聞いたから…。それに…、課長から見合いの話を持ち掛けられたって聞いた。すごいな、出世コース」
「…どこから聞いたんだよ、その話」
「ウチの課で話題になってる。井沢は仕事できるし…、井沢の出世はうれしい」

前を走る自動車のナンバープレートを一心に見つめながらわざと明るく言ってみたけれど、心がちくちくする。鼻の奥が、つん、とした。
こういうとき、男同士で付き合うって障害が多いと思う。

井沢と俺は付き合って5年が過ぎた。
お互いに社員としては中堅になり、彼女や結婚という話を振られることが多くなった。

俺は小さいころから同性にしか興味がなかったけど、井沢は違う。バイセクシュアルだから女性とも違和感なくお付き合いができるのだろう。俺には想像できないけど。

自分の気持ちをごまかすために見つめていたナンバープレートの数字が、井沢の携帯電話の下4ケタと一緒だと、ふいに気づく。
抑えていた気持ちがあふれ出しそうだった。

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