化かしあいはなしで
狸沢は俺、狐村の直属の部下で「こんこん先輩」と俺のことを呼んでくるような人懐っこいタイプだ。ある日、週末の飲みに誘うと狸沢は持ち前のドジで案の定やらかす。後始末を手伝っていたところで、あいつから突然告白されて――!?
「こんこんせんぱーいっ」
俺は狐村、とある商社に勤務しているしがないサラリーマンだ。
目が細くて鋭い目つきをしているのと、(悪気はないが)口が悪いことから「キツネ」なんてあだ名をつけられてしまった。
そしてのんきに俺を「こんこん先輩」なんてあだ名で呼んでくるコイツ、狸沢。
去年入社して俺がメンターとして面倒を見ることになったのだが、こいつがなかなかな奴だった。
*****
「はじめまして、狸沢です。よろしくおねがいしまーすっ!」
のんびりとした調子でそう挨拶してきたのが初対面だった。
「おう、よろしくな。まぁせいぜいがんばれや」
「キツネ~、またそういう言い方する。お前の下につくんだぞ」
「キツネ先輩?」
「そ。こいつ狐村っつーのよ。いじわるそうな顔してんだろ?」
狸沢はぱぁ。とほほ笑むと「こんこん先輩ですね!」と声を張り上げた。
*****
それ以降、俺はこんな風に呼ばれている。
ちょっとどんくさいところもあるが、人に取り入るのがとにかく上手で契約もしっかりとってくる。
とはいえ、目が離せないのが玉にキズなんだが…。
今日も週末だし飲みにつれて行ってやろうと誘っておいたにもかかわらず、狸沢のヤツはるんるんとスキップを踏んでいたら書類の詰め込まれた棚にぶつかって、書類をひっくりかえしやがった。
そのため、俺も片づけに付き合わされる羽目になっている現状だ。
「こんこん先輩ごめんなさい~」
とうるうるとした目で、見えない尻尾を垂らし懸命に片づけをしている。
「うるせー。とっとと片づけるぞ!」
「はい!!!」
狸沢は元気に声を上げると、書類を大量に担ぎ上げて、棚に戻そうとする。
俺はあいつの行動パターンからこの後の展開について、おおかた予想がついていた。
「おいお前!そんなに持ったら絶対ずっこけるぞ!」
「大丈夫ですよ!ってうわーっ!!」
狸沢は大きな声を上げるとともに、書類と一緒に俺のほうへと、見事に転んだ。
書類の山がバラバラと音を立てて舞い散り、大柄な男がこちらに倒れこんできた。
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