夢じゃなくてよかった (Page 3)

「…俺?」
「はい」
「俺、食べものじゃないぞ」
「わかってます」

岩田が大きく息を吸った、と思った。

「なんで…」
「瀬川さんが好きだからです」
「好き?」
「はい」

岩田がきっぱりと短く答えを返してくる。それは少し前にテレビで観た卓球やバドミントンのラリーのようで、俺の言葉もちょっと前のめりになりかけていた。

「好きって…、会社の先輩として?」
岩田の言葉を笑って流せばよかったのに…、そうできなかったのは岩田の赤い顔のせい?

「瀬川さんだから好きになりましたっ」

岩田はそう言うと大きく手を広げた。何が起きるのかと思う間もなく目の前がセルリアンブルーに染まった。岩田が着ているTシャツ…、ふかふかの生地で夏の日の匂いに、焼肉の匂いと岩田の汗の匂いがちょっとだけした。
どこかで焼肉を食べてきたのかと思ったら、なんだか岩田が可愛くなってきて笑ってしまった。

「なんで笑っているんですか…、俺、瀬川さんを抱きしめてるんですけど」

俺の背中に回った岩田の両腕に力がこめられ、いっそう強く抱きしめられる。岩田の匂いも強くなって、好きな人の腕の中にいるという実感が湧いてきた。急にどきどきして、息が苦しいのに顔が上げられない。

岩田が俺を好きって…、俺の耳が都合よく解釈してる?
顎に岩田のごつごつした指を感じた。くい、と顔を上げさせられて…、キスをされた。
目を閉じた岩田の顔が近すぎて息が止まる。

「…ぷ、はっ…」

唇が離れた瞬間に大きく息を吸うと、また唇をふさがれた。角度を変えるごとに唇を開かされ、岩田の舌が俺の舌先をつつく。きゅっとした刺激が舌から体の奥へと下りていく。

「は…、あ…」

舌の表面を、上あごをなぞられ、口づけが深くなるごとに体の奥へと伝わる刺激が熱を帯びていくような気がした。体がもぞもぞして、頭もぼんやりしてくる。むさぼるようなキスに体の力が抜けた。

「あ…っ…」

岩田に抱きかかえられる。視線が近くなった岩田をぼんやりと見つめると、静かに唇を重ねられる。濡れた感触に背中がぞくぞくして、思わず声がもれた。岩田の体がびくりと、わずかに揺れた気がした。

「瀬川さん…、反則です」
「え…?」

岩田に抱きかかえられたまま、バックルームの奥にある休憩室へ連れていかれた。

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