雨に濡れる花 (Page 3)
ふと、神秘的な音が聞こえた気がして目が覚めた。
戸口にフットランプはあるけど室内は暗く、まだ起床には早すぎる時間帯だとすぐにわかる。
「…起きちゃった?」
「トオルさん」
「ああ、声がかれちゃってるね…水飲むかい?」
「平気」
枕元のライトを淡い光量で付けて、トオルさんが心配そうに顔をのぞき込んだ。
喘ぐのを抑えられなかったから仕方ないとはいえ、後になって少し恥ずかしくなる。
「眠れない?」
「ちょっと目が覚めちゃっただけ…何か綺麗な音がして」
「音? …ああ、もしかしたら水琴窟(すいきんくつ)かな」
この家に立派な日本庭園があるのは知っていたけど、庭の一角に手水鉢(ちょうずばち)と共に設置されているらしい。
由緒あるお寺とか神社、茶室とかにあるものだと思ってた。
「まだ雨も止んでないし、今晩はにぎやかだね」
「うん…」
柔らかい掛布の中、二人の体温で温まってとろとろと眠気がやってきた。
身体の奥まで繋がるセックスはもちろん好きだけど、こうしてくっ付いているだけだって幸せなんだとオレは知っている。
だから、トオルさんの腕の中でもう一度眠ろうとしたのに。
「…うちの子になるかい?」
「…!」
囁かれたそれはからかいもなく、吐息のようにささやかな言葉だったけど、確かにオレに向けていて。
「…トオルさん、オレね、覚悟できてる」
「うん。シンヤくんは若いから、おじさんが相手じゃ悪いなって思っていたんだ…気持ちを疑ったことはないよ」
「そんな気がしてた。ちょっと年は離れてるけど、きっとトオルさんが思ってるよりずっと、あなたのことが好きなんだよ」
「手放してあげられないよ?」
「あんなすごいセックスしておいて?」
「今更かな?」
「今更だよ」
ようやく最後の一線が消えて、二人に境目がなくなった。
何だか嬉しくて、苦しくて、トオルさんの胸元に顔を埋める。
少し鼻声になってしまったかもしれないけど、何もいわずに撫でてくれる彼に甘えておくことにしよう。
ああでも、これだけは白状しておかないと。。
「トオルさん、今日ね、ちょっとだけ嘘ついた」
「そうなの?」
「ビーチサンダル、自分で壊したんだ」
雨の中、彼の家をたずねる理由に丁度よかったから。
「…困った子だね」
小さく笑ったトオルさんに抱き締められると雨の音が遠くなる。
口先だけで謝って、彼の口唇をかすめとった。
Fin.
年の差・・・
年上だから別れる準備をして、年下だから全力で追い掛ける覚悟をするふたり、幸せに終わって良かった~(^^;)
大丈夫、幸せになれるからって応援したくなっちゃう
ねね さん 2021年10月7日