まるで恋人のように
弟にひそかな恋心を抱いていた三春(みはる)は大学の同級生、朝比奈(あさひな)にそれを見抜かれてしまう。弟の代わりに抱いていいと朝比奈に言われ、三春と朝比奈の体の関係が始まった。朝比奈に弟を重ねて抱いていた三春だったが…。
俺より頭半分、背が高いけれど、俺よりは細身の朝比奈(あさひな)の体に口づけを繰り返す。健康的な肌にいくつもの紅(あか)が広がり、朝比奈はそのたびにつやめいた声を漏らす。
その声だけで、俺の気持ちと体は高ぶるのだ。
*****
大学時代からの親友、朝比奈と体を重ねるようになったのは、大学3年の秋だった。
黄色に色づいた銀杏(いちょう)の葉が校舎に続く細い道を埋め尽くし、教室の窓ガラスが金色に光ってまぶしかった。
その光を背にした朝比奈から突然言われたのだ。
「三春(みはる)は弟が好きなんだろう? 恋愛という意味で」
まさにそのとおりすぎて、俺は「ああ」とも「いや」とも返すことができなかった。
逆光で表情がはっきりと読めない朝比奈をぽかんと見つめていると、朝比奈が声を上げて笑う。
その声にはバカにした響きは感じられなかった。少し乾いた笑い声が、俺の心をちくりと刺したような気がしたのだ。
「俺のことを弟に似ているって言ってたけど…、どこが似ていると思うの?」
朝比奈がかけている眼鏡のふちが光にきらきらと揺れる。
俺は目を細めた。
「どこって…、目の雰囲気とか…、全体的な雰囲気…かな」
奥二重で黒目がちな目や高い声、線の細いところが俺の弟に似ていると、初めて朝比奈に出会ったときからそう思っていた。
そのうえ、弟と朝比奈の誕生日は同じ日。…そんな簡単な理由から、すぐに朝比奈と打ち解けた。
8歳離れた弟のことをよく話していたけれど、まさか朝比奈に俺の思いを見抜かれていたとは…。
「弟の代わりに俺を抱いてもいいよ」
朝比奈がほんの少し首をかしげる。眼鏡のふちで跳ねた光が耳に柔らかくこぼれる。
温かそうな形のよい耳に、俺の胸が、とく、と鳴った。
「抱くって…。朝比奈…、抱かせてくれるの?」
耳が、きーん、とする。自分の声が遠く聞こえる。
「うん? 三春が下になる?」
「あ…、え…と、朝比奈…、下でお願いします…」
朝比奈の突然の言葉にしどろもどろで答える。
ふっ、と朝比奈が笑う気配がした。
朝比奈が眼鏡を外して俺に近づいてくる。眼鏡から光がこぼれて、朝比奈の指を滴のように濡らしていた。
逆光にふちどられた朝比奈の髪や肩がとてもきれいで、まるで天使に懺悔(ざんげ)でもしているように思えた。
俺のゆがんだ恋心を朝比奈が赦(ゆる)してくれているようだ、と…。
*****
あの日から4回目の秋を迎えた。
社会人になった今でも朝比奈との関係は続いている。どんなに仕事が慌ただしくても、金曜日の夜はホテルを予約して朝比奈と過ごしていた。
最近のコメント