その王弟、臆病につき

・作

平民のヒュールは、ある休日、困っている貴族らしき男にパンをおごった。男のとんでもない美貌に一目ぼれしたものの、身分の差にもう会うことはないと思っていた矢先、二度目の出会いは思いもよらない形でもたらされ、男の正体を知るが――。

自分を組み敷くこの男の正体を、ヒュールはもうわかっている。
「あ、あぁっ……!」
滑らかなシーツをつかんだヒュールの手に、逃げ腰の体を引き戻すように浅黒い肌色が重なる。骨ばった大きな手が、腕を滑って白い横腹をなでた。ぐぬ、と熱が奥へ突き刺さると、濡れた体が弓なりにそれ、意味のない声が喉奥から漏れて、眦(まなじり)から涙がこぼれる。ぐちゅ、という卑猥な水音に、後ろにいる男が静かに笑う気配がした。
「――きもちいい?」
小刻みに揺らされ、
「ああっ……あっ、や、んんっ、」
直腸を剛直が刺激するたび、あられもない声が喉からこぼれる。涙と汗と、何かわからない液体に濡れた顔をじっと見つめて、男はうっとりとした声で乞う。
「ね、オーリって、呼んでよ」
切なげに目をすがめた色っぽい表情に、思わず返事が遅れて――何か勘違いしたのか、男――オーリは眦をきりりと鋭くし、角度を変えて最奥を突きこむ。激しさをますピストンに、ヒュールはたまらず声を震わせた。
「あっ、ああんっ、よぶっ、呼ぶからっ、あん、おーり、オーリ…も、だめ、だめ、ああっ」
「いい子のヒュールにご褒美あげないとねっ、奥、たくさんついてあげるっ…!」
がつがつと揺さぶられ、再び高みへと昇っていく。
「っ、は、だめ、だめ、出る、でるっ、っ――ああぁああっ!」
同時に熱いものが奥へ叩きつけられた。もう何度となく味わった熱は、まだ終わらない。どさっと覆いかぶさるように、オーリの汗に塗れた体が密着する。首筋を舌が舐め、乱れた息が耳元で甘く響く。
「あ、ん、まだ、出て…」
「ん、ヒュールの中、気持ちよくて、……」
身をよじるが、なかなか出ていこうとしない。すり、と腰を押し付けられて、切っ先が角度を変えた。弱い一点をかすめて、ヒュールの喉から甘い息が漏れる。きゅっと締め付けを感じて、オーリのものが芯を取り戻す。
「えっ、あっ、もう、も、だめ、」
「――ごめん、もう一回ね」
かけらも悪いと思っていない声が、耳元に落ちた。

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