さよならはいわない
孤児院出身のジーク・リーヴェストは、貴族の養子となり、成人して間もなく王都で騎士に叙任された。とある辺境への任務にて、かつての初恋の人――トワ先生を見つける。ひどい別れの経験と、すっかり変わってしまった自分の姿に、ジークは正体を明かさず近づくことにして――。
月明かりの眩しい夜だ。まだ日付は変わっていない。明朝にはこの地を離れるが、汗ばんだ体の下、甘い声で喘ぐ男に、ジークはまだその予定を伝えられずにいる。
「ん、ふ…ぁ」
その細い腰をつかみ、大きく揺さぶって。その唇を舌で割り入り、口内を舐めつくす。細い太ももを大きく広げ、何度も何度も、甘く淫らな嬌声を上げさせる。
簡素な寝台の上、組み敷いた男を見下ろしながら、ジークはふと幼い頃、彼の腰にすがって読み聞かせをねだったことを思い出した。その薄い色素の唇が優しいテノールで文字をたどるさまを、その膝枕に頭を寝かせ、下からじっと見つめていた幼い自分。
「んっ、だ、だめ、そこは、やめ…やぁ」
首筋に顔をうずめ、思うままに奥を突く。言葉とは裏腹に、ジークのものを離すまいときゅうきゅう締め付け、抱かれるたびに快楽へ順応し媚びる体に、欲が止まらない。
抱くのは決まって男の部屋だった。古びた壁を挟んだ向こう側で子どもたちの声が響くたび、清廉な大人を演じるこの男は、面白いように体をびくつかせる。
「――集中しろ。ひどくされたいのか」
応える代わりに、涙が一筋、白い肌を滑り落ちていく。
小刻みに腰を揺すれば、ぐちゅぐちゅと接合部が淫らな水音を立てた。透けるような肌が、ほのかな赤に火照る。中の少し右奥、硬く質量の増した肉で穿(うが)ってやれば、子犬のように愛らしく鳴く。
「ひ、んぅ、あっ、やぁ、きしさ、騎士さま、だめ、もう、あん、ぁ…っ」
泣きどおしで眦(まなじり)が赤く、いっそう欲をあおる。食いしばって傷のついた唇に、もう何度口づけたいと思ったか。首筋をつ、と舐め、鎖骨を食む。つんととがった乳首は何度も舐めしゃぶったせいか、果実のように腫れていた。
骨の浮いた腹から、掌を腰元へ撫でおろす。細い腰をつかみ、律動をいっそう激しくすれば、艶めかしい肢体が生きた魚のように跳ねまくった。
「も、おく、や、くるし、あっ、あっ、ぁ…」
何度も穿ち、放ち、また繰り返す。白い腹に、半分萎えた芯から蜜が零れ落ちて、腰を打つと淫らに散った。達した男は息を乱しながら、何か言いたげに見つめてくるものの、言葉にはしない。
――彼にとってのこの行為は、自分にとってのそれと違う。
ジークはそう感じるたび、こうなったいきさつを思い返した。
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