欲望の花は鮮やかに咲いて (Page 2)
ため息を吐く真澄を見て、姉御肌の店長が笑った。
「私は気付いてたけどね。あの子、真澄君が店にいるときしか来ないから」
「えっ、そうなんですか?」
驚く真澄に、店長はニヤニヤと畳み掛ける。
「そうよ~。しかも、真澄君のこと、ちゃっかり名前で呼んでるしね。ま、試しに付き合ってみたら?一流企業勤めで、顔も悪くないし。将来有望じゃない」
真澄は告白してきたときの龍二を思い出す。
一生懸命に自分の気持ちを伝えてきた、あの真っすぐな眼差しを。
「…そんな軽い気持ちで、お付き合いするのは失礼だと思います」
「そう?真面目なのねぇ」
告白を断るにしても、きちんと返事をしなくてはならないだろう。
そのときのことを考えると気が重くなり、真澄は再びため息を吐いた。
*****
数日後。
雨がしとしとと降る中を、真澄は傘を差して歩いていた。
平日の今日は仕事は休み。
ゆっくりと家事を済ませて、夕方、図書館で本を借りてきたところだ。
帰り道、自身の勤めるフラワーショップにでも寄ろうと足を向ける。
店の前まで来ると、そこに見覚えのある人物がいた。
ショーウィンドウ越しに店内を眺める、スーツ姿の男性。
「島崎さん?」
声を掛けてから、真澄は少し緊張する。
あの日に告白を受けてから、初めて龍二と顔を合わせるのだ。
ここは年上として、落ち着いた態度で接するべきだろう。
龍二は振り向くと、真澄の姿を認めて目を見開いた。
「あっ、真澄さん…。今日はお休みだったんですね」
「はい。中、入らないんですか?」
店内を手で指し示すと、龍二は困ったように微笑んだ。
「あ、いえ、いいんです。あなたの姿を見たかっただけなので」
そんなことを言われてしまい、真澄は顔が熱くなるのを感じた。
急いで話題を変える。
「あの、島崎さん、傘持ってないんですか?」
雨は小降りになってはいたが、傘のない龍二のスーツの肩が濡れている。
「ああ、急いで来たから、会社に忘れてきてしまって」
「僕の部屋、ここから近いんです。よかったら、傘とタオルをお貸ししますよ」
「え…あっ、じゃあ、お願いしてもいいですか?」
龍二は一瞬戸惑った様子を見せたが、やがて頬を赤く染めて頷いた。
その表情の意味に気付いていない真澄は、龍二を連れ立って自分の部屋へと戻った。
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