後輩に脅されまして (Page 2)
結果として、俺は現在、小野原に脅されて…いるようです。
今一つ自信をもってそう言い切れないのは、もっと下衆(げす)な要求をされると想像していたからだ。
「戸川先輩。見積もり、頼んでいいですか」
以前だったら、「お時間あれば…」とかなり遠慮がちだったが、あれから意気揚々とやってくるようになった。
「小野原ぁ。戸川は俺のサポートなの。おまえは後だ、後」
営業部のエース・江本が当然のように割り込んできた。野生動物のごとくしなやかで美しいその体には、妄想の中で抱いてくれて感謝しているが、俺様の相手は現実ではご遠慮したい。
「戸川先輩には了承を得ています!」
ですよね、とにらむようにこちらを見る小野原。江本の視線が俺を伺う。
「…あー、そうなんですよ。小野原くんが先約で。すみません、江本さん」
申し訳なさそうに言えば、江本は大げさにため息をついて、俺の肩に腕を回した。
「なんだよ、戸川ぁ。同期なんだからもっと砕けていいって、前から言ってるだろ?」
「いや、主任と平じゃ違いますよ」
小野原の視線が突き刺さるのを感じて、やんわりと江本を遠ざける。俺は小野原の希望に従わねばならないのだ。視線が「離れて」と要求している。
「はい、先輩。一時間後、取りにきますね」
小野原は資料を俺に手渡すと、にこりと笑って事務課を後にした。
*****
別に期待していたわけではないが、小野原の態度には拍子抜けした、というのが本音だ。写真で脅さないといけないほど、俺の小野原への態度が悪かった…とは思わない。サポート業務は得意なほうだし、数もこなせる自負があるから、仕事を断ったことはないはずだ。
まあ、目の前で自慰をしている男がいたら、写真の一つや二つ取りたくなるかもな。
隠し撮り常習犯の俺が言うんだ。間違いない。
写真をきっかけに俺への遠慮がなくなったのなら大いに結構。
――俺はそう、安心しきっていた。
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