後輩に脅されまして (Page 3)
「今日、先輩のうちに行っていいですか」
終業間近、どこかウキウキと事務課に現れた小野原の一言に、俺は固まった。
「…俺の家? どうしてかな」
「どうしてって、まさか僕、断られちゃいますか」
おお、なんてあざとかわいい、きょとん顔。
――現実逃避はさておき、写真を取られたのは、一月前か。すっかり忘れていたが、脅されていたんだった。俺に残された選択肢は一つだけ。
「まさか。いいよ、おいで」
*****
近くのスーパーで夕飯の弁当を買い込み、小野原と連れ立って帰路につく。俺の部屋は、会社から電車で二駅のマンションの一室だ。
部屋に到着し、先に中に入るよう促すと、小野原は狭い玄関で立ち止まった。うつむいた彼の肩が揺れている。
――笑っている?
「小野原、くん?」
「くっ…。バカすぎて心配になるわ、ホント」
「うん?」
ひどく嫌な予感がする。
後退しようとして、空いたほうの手をぐいとつかまれ、中に引き込まれた。腰に長い腕が回ったとき、後ろでドアが音を立てて閉まる。がん、とドアに体を押し付けられ、後頭部をするりと抱かれ、上向かされた。
身長差はそれほどないはず――なのに。
「先輩は、おバカさんですねぇ」
からかうような口調だが、目が笑っていない。
追い詰めた獲物を見下すような視線に、体に震えが走る。
「ナニってる写真撮られて、危機感まるでなし。脅迫相手を家に入れて…。チョロすぎて逆に心配ですよ。分かってます? 今から、あんた。可愛い後輩くんに食われますから」
にこ、と小野原が笑う。
――いや、誰だ、これ。
呆然とする俺に、小野原の影がかかる。ドアに押し付けられた体はびくともしない。
「はい、お口開けてくださいね」
「なっ、んぅ、っ…」
抗議に開いた口の中へ、熱い舌が差し込まれた。ぬるりと歯列を這い、口腔を舐める。
キス、やばい、とけそうだ。
力が抜けて、手から弁当の袋が滑り落ちた。
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