もっとちゃんと欲しがってみせて
シロウとルイは大学時代からの恋人同士。毎日幸せな日々を送っていたが、ある日ルイの我慢が限界に達してしまう。シロウは自他ともに認めるほどの尽くすタイプで、ルイはそれがもどかしく、もっと能動的に接して欲しかったのだ。そしてようやく、シロウがルイへ求めたのは──…
 恋人のルイちゃんは、黙っているとちょっと冷たく見える、クールできりっとしたネコ科っぽい美人系。
 それに対してオレは、190cmを超える背の高さと体格のよさでビビられたりするものの、どちらかと言えばのほほんとした熊か犬かと言われるタイプ。
 大学生のころに綺麗なひとだなぁなんて目で追いかけていたルイちゃんに、押されて押されて──気が付いたら恋人になっていた。
 はっきりいって高嶺の花だったんだけど…いまだに謎だ。
 まあ、オレ自身ルイちゃんが大好きでベタ惚れしてるから問題ないや、と納得してからは楽しい毎日を過ごしている。
 お互いに社会人になってからも付き合いが変わらない──どころか同棲も始めて、デートしたり旅行にいったり愛は深まるばかり。
 ──…幸せだなぁって思っていたの。
「シロウはさ、ボクに対して希望とかないわけ?」
 ちろりと見上げてくる切れ長の眼差しにどきっとする。
 美人な恋人のルイちゃん相手だが、残念ながらときめきではなくちょっと怖かったなんて言えないが。
「いつも、ボクの要求を通してばかりな気がする」
「そう…? オレはそんなふうに思わなかったなぁ」
 むしろ、ルイちゃんのお願いなら率先して叶えたい。
 わがままだって本人が思うほど横暴じゃないし、むしろ甘え下手なところが滲み出てて可愛いというか。
「ボクはシロウのやりたいことを聞きたいんだけど」
「ええ…? うーん…ルイちゃんと一緒にいられれば満足なんだけどなぁ」
「普段からボクの言うことを何でもきいてばっかりじゃないか。行きたいところも、やりたいことも、食べたいものも、見たい番組のことも!」
「だ、だってオレ、それが楽しいし…自慢じゃないけど尽くすタイプで、それが楽しいのね。だからルイちゃんが喜ぶとオレも嬉しいんだよ…」
「だから! それじゃ嫌だって言ってるんだ!! ボクだってシロウのわがままに振り回されたいのに!!」
「ルイちゃ、」
「そもそも! シロウはボクを甘やかして優しくしてばかりで強引さがないし! 別にオレサマ系がいいわけじゃないけどボクはお姫様扱いされたいわけでもないの!」
「おう…」
「デートも! キスも! エッチも! 全部だよ全部!!」
「ええ…?!」
 めっちゃ駄目だしされてるじゃん…。
 思わず涙目になったけど、よくよく考えたらルイちゃんにそんな不満を抱かせてしまってたってことに気が付いて、もっと凹んだ。
「ごめんねルイちゃん…」
「ひどくしてほしいわけじゃない。でも、ボクはシロウに求められたいんだ」
 ルイちゃんが強い眼差しでオレに訴えてくれたその気持ち。
 その思いに応えられなくて、何が恋人か。
「──…わかった」
「シロウ…?」
 ルイちゃんを優先することがオレの幸せではあるけど、だからといって自分の欲がないわけじゃない。
 もちろんいじわるをしたいわけじゃないし、痛いことや乱暴なことをしたいわけでもないけど、オレだって男だもの、好きな人にしてみたいことはある。
「今日は、オレのわがままに付き合ってくれる?」
「な──、いや、うん。シロウがしたいこと、ボクにちゃんと教えて」
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