Alraune~繋と自慰と~
堀宮明(ほりみやあかり)は検死を行い旧知の若き警部補、月岡闇慈(つきおかあんじ)へいつもの調子で情報を提示する。命を扱う彼は『セイ』を求める。それが性か生かは兎も角。彼に思いを寄せる闇慈の心の内にノイズが走る。梅雨に咲くその花は。
「20××年6月21日、午前10時執刀医、堀宮明が検死を始めます」
ざあざあと耳障りな雨音と纏わりつくような不快な湿度で壮年の男は静かに告げる。
その眼差しは鋭くそのぴたりとした手袋をした指はしなやかに忙しなく動く。
カチャカチャと嫌に響く金属音と錆びたような鉄の匂いが狭い室内に充満していくその閉塞感の中、俺は少しも見逃さまいと前のめりに覗き込む。
同じ部屋に居る刑事の中には口元をハンカチで覆い顔を蒼白にさせる中、じっとその動かぬ『物体』が開かれるのを見つめていた。
「胃に内容物は無し。…腸も…ない。数日なにも与えられていない。硬直や死斑、腐敗具合から見て…季節も考慮し死後3日以内ってところか」
「明さん」
俺は声を掛ける。
「直接的な死因はなんですか」
「そうだね。まぁ君たちが最初に言っていたように絞殺…と言いたいところなンだけど。死斑で君たちにはわかりにくいとは思うけどここを見てもらえるかい?」
彼は被害者の腕を持ち上げその斑の皮膚の一か所を指さす。
「注射針の痕だ。まぁ私は検死が仕事だから解析はそっちに任すけど。まぁ恐らくは筋弛緩剤や睡眠薬、そう言った類だ。抵抗の痕跡がない。ごらんよ、爪はとてもきれいだ」
くすくすとその手を取り慈しむ様にその手を撫でた。
「明さん、ふざけないでください。俺だけじゃないんですから」
「おっと失礼。死亡推定は20××年6月15日未明から17日深夜にかけてって所だ。薬物を投与後、麻縄の様なもので絞殺。抵抗の痕跡無し。被害者は数日間食事を与えられていない事から私怨が濃厚だね」
彼は謡(うた)う様に告げその手袋をパチン、と外しゴミ箱へと投げ捨てた。
「じゃあ、あとは君たちの仕事だ。よろしく頼んだよ」
「後で部屋に伺います」
検死後、解剖されたモノは、警察官の俺たちが丁寧に戻し縫合する。
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