濡れ鴉と白い羽~媚薬漬で閉じ込めて~
ラーベン(鴉)領を収めるシュヴァルツ(黒)家のクリストフは良き領主として在りそれを支えるエトヴィン・ケステンも良き執事であった。領主の呪いに苦しみもがく主を支えるが壊れ行く彼は媚薬を飲ませ牢に放り込み———。
ことり、と小瓶が転がった。
その胸を押さえ、熱い吐息を押さえるかの如く瞳をきつく閉じ小さく「ふ、」と息を漏らす。
「エトヴィン」
「っ、はい…主様」
「まだ、残っているだろう?」
目の前に座する濡れ鴉(からす)のような美しい髪を結い上げ同じ色の瞳が私を射抜く。そのしなやかな指先が差す先には小瓶がまだずらりと並んでいる。
「わかって、おります」
そうして、また一つ凝った装飾が施された小瓶を手に取り、蓋を開けると口に流し込んだ。
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ラーベン領では長く不作が続き民は苦しみ喘いでいた。鬱蒼(うっそう)とした雰囲気の中、森をかき分け進みゆくと寝起きざまの様に突如現れる館がある。ラーベン領を収めるシュヴァルツ家の館である。
黒き鴉の領として畏怖されることが多かったが、その実領主は他の領主と比べ税は安く領民の声も聞き入れてくれる良き領主であった。
館の中は暗く、燭台を手に酷くゆっくりとした足取りでしか進むことが出来ない。だがそれはある種仕える者としては有難いというものだった。常に丁寧な所作を心掛けねばならないのだから。
「失礼いたします。クリストフ・フォン・シュヴァルツ様、ラーベン領の長を連れてまいりました」
「入室を許可する。エトヴィン、後ろに控えよ」
甘く低い声が響き、私は主の後ろへ控える。濡れ鴉のような美しい髪が燭台の灯火をゆらゆらと受け光る。
「して、何用か」
「お目通り有難く存じます、クリストフ・フォン・シュヴァルツ様。他領よりもずっと良い環境に置かせて頂いて領民一同とても助かっております。ですが、この不作続きでもう限界が来ております…」
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