おじさんたちは今日もらぶらぶ
朔太郎(さくたろう)は、恋人の薫(かおる)のことを非常に羨ましく思っていた。長い月日をともに過ごしていくなかでもうお互いに所謂おじさんと呼ばれる歳になったというのに薫はとてもいい歳のとり方をしていて、それに比べて自分は…。自分なんてと卑下する恋人をでろでろに甘やかすイケおじ×ふつおじのハッピーらぶらぶストーリー。
「薫は本当にいい歳のとり方をしたなぁ…」
リビングのソファでお茶を啜りながら朔太郎はしみじみと呟く。隣に腰掛けていた恋人である薫はコーヒーを飲みながら、ふふと笑った。
「どうしたの急に」
「いや、最近自分がものすごくおじさんになった気がしてなぁ」
体力は落ちたし、目は霞むし、白髪も増えたし、腹も出てる気がする…。すると薫は朔太郎の腹に手を伸ばしてさすさすと撫で上げた。
「ん〜…そんなことないと思うけど。俺だって同じようなもんだよ」
「いや全然違うだろ」
朔太郎の目から見てだけではなく客観的に見ても薫は所謂イケおじと呼ばれるジャンルの人間であることは明白だった。
体力は落ちてなさそうだし、新聞や本を読む時に掛ける眼鏡も様になっているし、白髪もバランス良く増えうまい具合にロマンスグレーといったおしゃれな色合いになって、腹は出ていない。それに比べて自分は…朔太郎は小さく溜息を吐いた。
「朔太郎は昔から変わらず可愛いよ」
「はいはい、そんなこと言ってくれるのお前だけだよ」
とはいえ朔太郎もおじさんになることが嫌なわけではない。確かに恋人に比べればかなりおじさんおじさんしたおじさんになってしまった訳だが、それと同時に長い時間をともに過ごしたという事実が嬉しかった。
色々なことがあったなぁとしみじみと思うと、さまざまな情景が走馬灯のように浮かんでは消える。たくさん悩んだし困ったし喧嘩も数え切れないほどしてきたけれど、概ね楽しい日々だった。恋人の薫のおかげで。
「朔太郎は可愛いよ」
こうして薫は度々朔太郎のことを褒めて甘やかして、存在自体を肯定する。朔太郎は昔に比べて自己肯定感が上がりに上がって、恋人がいずれ自分に飽きて離れていくかも…なんて心配は一切しなくなっていった。薫の教育の賜物である。
「はいはい」
ただそれはそれとして腹が出たのは単純に少し恥ずかしい。流石にお菓子はそろそろ控えないとまずいだろうかと、服のなかに侵入してきた身体を這う手を止めながら思った。
「…まだ明るいからだめ」
「明るくなかったらいい?」
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