史上最高のバースデーパーティー ~ハタチは特別一生モノ!~ (Page 8)
「兄貴、童貞?」
「ぐっ!」
痛い。心に思い切り刺さったらしい。
それも、原因は弟を溺愛するあまり、部屋のあちこちやスマホのホーム画面やデータ、至るところに弟の写真や動画などの存在があるのだから、彼女ができてもすぐに呆れられ、フラれるのだ。
「…なら、兄貴の童貞もそのうちもらっていい?」
ねだる弟の可愛さに、別の刃が胸に刺さる。
「…それは、その…お前が嫌じゃないなら」
「嫌じゃない、嫌なわけないよ」
笑みを浮かべながら、もう一言付け加えた。
「俺の初めても、全部もらってよ」
再び、目を丸くした友哉は恐る恐る訊ねる。
「お前こそ、その…経験してなかったのか?」
「当たり前でしょ?」
驚く兄にまた眉をひそめると、理解に苦しむ友哉はさらに質問を重ねた。
「じゃあなんで、あんなに手慣れてたんだよ」
問いかけに今度は将也が劣勢のように視線を泳がせる。
「え、そ、それは…その…」
ついにはうつむく弟に、泣きそうな気持ちになるのが不思議だった。
「兄貴が、ちゃんと気持ちよくなってくれるように…勉強した」
ぼそぼそと紡がれた弟の言葉が愛しすぎて、思い切り抱き締めた。
「はは、気ィ遣いすぎだっての。バーカ」
「ちょっ、苦しい…」
そのまま、襟足で揃えられた柔らかくさらさらの黒髪を乱すように撫でていると、将也がしびれを切らした。
「お腹空いた」
「あ、わりぃ、すぐ飯…」
「あるじゃん」
慌てる友哉に、将也はテーブルを指さす。
「でも、あれは」
「食べるに決まってるでしょ?折角兄ちゃんが作ってくれたんだから」
どこか怒っているような姿に何も言えずにいると、将也は散らかったものだけ適当に片づけ、カトラリーを持ってテーブルに戻ってきた。
「さ、早く食べよ」
「まずくても文句いうなよ?」
友哉はきまり悪そうに言って席につく。
「いただきまーす!」
冷めてしまった料理を幸せそうに頬張る将也。
味は確かにお世辞にもおいしいとは言えないが、今までで一番幸せな誕生日だと噛み締めていた。
また、その様子を見る友哉も、これが夢なら覚めないでくれと、心から願っているのだった。
Fin.
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