僕は人魚姫にはなれない (Page 2)
運命かと思った。
諦めていた前川がまさか自分と同じだとは。
しかもこんなふうに僕を呼び出して、話してくれたということは、前川も僕のことを…。
一気に期待が膨らみ、前川の言葉の続きを待った。
これ以上ないくらいにドキドキと胸を高鳴らせながら。
けれど…。
「笠井のことが好きなんだ…」
前川の口から出たのは違う名前だった。
笠井は前川と同じ学部の男で、前川に誘われて複数人で遊んだときに僕も会ったことがある。
真面目で大人しそうで、とにかく初めて会った僕にも優しかった印象がある。
一瞬でも舞い上がった自分が恥ずかしいし、何より他のやつに前川の心を取られたということが悔しい。
けれど、僕はそれをグッと抑え、前川に尋ねた。
「…なんで、僕に男が好きなんて暴露したの?」
相手によっては理解されない場合もある。
そんな大事な話をされるほど、まだそこまでの仲ではないはず。
それなのに、なんで僕に…。
僕の疑問に前川は少し気まずそうに頬をかいて言った。
「西野が同性愛者ってお前と同じ学部のやつから聞いたんだ」
悪気はないんだろう、前川には。
そもそも僕だってオープンだから、隠してはない。
恋愛トークをされれば普通に同性が好きだと話す。
同性を好きなことはなにも悪いことじゃないから。
だからクラスの中に知ってるやつもいる。
でも、どいつか知らないが、なぜ勝手に人のセクシュアリティについて言いふらすことができるんだ?
しかも、それを知っていた前川は、僕のことを遊びに誘ってくれていたのも、今この瞬間の相談をしたいがためだったのか?
浮かれていた自分が馬鹿らしい。
「勝手に聞いてごめん…でも、誰にも相談できなかったから、西野が同じなんだって知って嬉しかった」
傷ついて悲しくなる僕に対し、前川はそう言って子犬ような目を向けてきた。
好きすぎるその顔を前にすると、嫌味のひとつも言えなかった。
自分でもお人好しだと思うけど、僕は前川への気持ちを隠して、前川の話を聞いてやった。
笠井はきっとノンケで、告白なんてできないということ。
でも、どうしようもなく求めたくなって、我慢できなくなりそうになるということ。
前川の話はまるで僕自身のことのようで、胸が痛んだ。
同時に、これほど笠井を想う前川は決して僕を見ないんだと、強く認識させられた。
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