ふたりだけのひみつ (Page 2)
「…最悪」
大学からの帰り道、駅のホームで恭太とばったり出くわした。
恭太も恭太で気まずいのだろう、俺の存在に気づかないふりをしてスマホに目をやっている。
まぁ、俺からしたらそれが”ふり”だってことも、わかりきってるんだけど。
恭太と目を合わせないよう、背を向けるようにして隣の列に並ぶ。
謝るなら、謝ってほしい。けれど、冷静に考えてみれば、一体何を謝るっていうんだろう。
男同士でヤるなんて、確かに見る人が見たらおかしいって言われるだろうし。
俺だって、大声で全国のみなさんに言えるかって言われれば、そういうわけでもない。
それに気づいて、やめようって言った恭太の判断は懸命だったのかもしれない。
むしろ第三者から見たら、こんな風にすねて、恭太とのセックスに執着してる俺のほうがおかしいんじゃないだろうか。
『蒼汰は、セックスだから問題なんでしょ』
昼間の光の言葉が思い出される。
じゃあ、なんだ。セックスじゃなくて、プラトニックな関係なら許されるっていうのか。
「あの…蒼汰」
恭太の声がする、思わず振り返ると、そこにはいつもの恭太の姿。
何、って問いかけたら、またあのめんどくさそうな顔。
「…電車、行っちゃったけど」
「え」
はっとして進行方向を見ると、俺が乗るはずだった電車の後ろ姿。
自分のアホさ加減に傷ついて肩を落としていると、後ろから笑い声が聞こえた。
「蒼汰、ほんとたまに抜けてるよな」
「…うるせー!笑うな!」
いつも通りの恭太の笑顔に、ほっとした。
嫌われたわけじゃない、一生話さないとか、そういうことじゃないんだ、と少しだけ安心した。
「恭太のせいで、電車乗り過ごしたんだけど」
「俺のせい?蒼汰が抜けてるせいだろ」
「うるさい!とにかく!付き合え!」
恭太の腕をつかんで、自分の家とは違う方面の電車に乗り込む。
行き先なんて決まっていなかったけれど、今はただ恭太と一緒にいたい、そう思ってしまった。
そこから5駅ほど過ぎた駅で、2人一緒に降りた。
どこ行くの、とか恭太の声が聞こえたけれど、そんなのフルシカトでずんずんと進んでいく。
「…ここって…」
駅から少し離れた場所で、足を止めた。ようやく振り返って、恭太のほうを見る。
「ラブホだけど、何」
信じられないといった表情で俺のほうを見る恭太の手首を、もう一度ぎゅっとつかむ。
そのまま強引に引っ張って、俺たちは怪しい照明で照らされたエントランスへと入っていった。
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