俺のアンチへの”わからせ”
インフルエンサーの安田伸は、掲示板で自分を誹謗中傷する人物、斎藤正人を特定した。弁護士には直接会うなと言われたのに、斎藤のアパートを尋ねる。突然の訪問に動揺する斎藤。安田が直接会いに来たのは、金でも謝罪でもなく、彼を「わからせる」ことだった…。
「今日はプール付きのホテルでディナー…っと、投稿完了!」
俺、安田伸はインスタの投稿を完了した。一応フォロワーも万を超え、インフルエンサーだとは自負したい。非日常のホテルのディナーの写真を載せると、けっこうバズったりする。まあ、いいねを押される数も多いが、反面アンチも多いのだけれど…。
「どれどれ、ああ…早速こっちも投稿してきたか…。どうせ、おっさんに身体を売っていい思いしてんだろ、って。想像力豊かだな」
某掲示板を見ていると、俺へのアンチスレ的なものがあって、ひたすら悪口を言っている。時間関係なく投稿しているからきっと暇人なんだろう。
初めは気分が悪かったそれも、そろそろ終わりだ。匿名で誹謗中傷して逃げ切れるとでも思ったのだろうか。弁護士を通して開示請求を行い、一番悪口を言っていたやつの名前住所が判明した。
「住所が東京で…名前が斎藤正人…か。弁護士には直接会うなとは言われたけれど、どんな奴か見てやろう」
さいわいにも俺の家からはそう遠くなかった。
「一度ぐらい顔を見てやりたいじゃないか」
今日は丸1日予定もない。深く帽子をかぶって家を出た。
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「ここか…」
俺のタワーマンションとは違って、ありきたりな三階建てのアパートにたどり着いた。今もリアルタイムで俺の愚痴を投稿し続けているので、ネカフェとかで投稿していなければ家にいるはずだ。
「俺の神経も図太いな」
普通の人なら、自分のアンチには会いたくもないだろう。俺は構わず、弁護士から教えられた住所のインターホンを鳴らした。
「はい…、えっ、あっ、安田 伸?」
「こんにちはー、初めまして。俺のこと知ってるんですね。俺も有名になったなぁ」
白々しく笑顔でそう言ってみたが、俺がここに来たことで、こいつは察しがついたのだろう。
「あの…何の用でしょうか…」
自信のない顔で、俺と目線を合わせないくらい顔を上げてそう言った。髪は長めで整えられていないいかにもオタクという感じだが、顔の素材は悪くなさそうだ。
「俺が来た理由、わかってるでしょう。 さっきそんな顔してたじゃないですか、白々しいですよ?」
そう言ってやれば、まずいと目線を逸らせ下を向いた。何も言わず、ドアを閉めようとするので、閉められないように足と手で固定した。
「家に入れてくれませんか? 別にかまいませんが。でもその時は正規の手段で…」
「うっ…わかりました」
「懸命な判断です。お邪魔します」
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