俺達の始まり
俳優デビューしてから10年。最近になってようやく人気がでてきたハルトは連ドラ主演のオファーに喜んだ。だがそれはBLドラマのW主演で相手役を務めるのは人気アイドルのマサヤだった。売れるまで苦労したハルトはマサヤが嫌いだった。そんなマサヤに親睦深めるために飲もうと家に誘われて…!?
連ドラの主演話がきたと、マネージャーから知らされたときは心が踊った。けれど嬉しい報告のはずなのにマネージャーの表情は冴えなくて、その理由は概要を聞いてわかった。
「なんだよそれ!有り得ないんだけど」
「ハルトはそう言うだろうとは思ったよ。でも、せっかくの大きな仕事だから、受けるべきだ」
たしなめるようなマネージャーの声に、俺は大きなため息を吐いた。
役者を志してこの世界に入ったのは16歳のとき。けれど自分で思っていた以上にそこは厳しい世界だった。オーディションには落ちまくり、それでも仕事が来たらどんなものでも全力で取り組んだ。もちろん演技の勉強も必死でやって、鳴かず飛ばずの日々が10年。
去年、出演したドラマで主要人物をやらせてもらったことで認知度があがり、ようやくちょくちょくと仕事が入ってくるようになった。
そして、ついに主演ドラマだと息巻いたのも束の間、蓋を開けてみればW主演。それ自体は別にいい。問題なのはもう1人の主役となる相手、マサヤだ。
マサヤと俺に面識なんてない。向こうが俺を把握しているかもわからない。ただ、俺がマサヤを嫌いなだけだ。
アイドル歌手としてグループで活躍しているマサヤは、持ち前の美貌に加えて表現力も備わっていた。デビューした年から、トントン拍子にドラマや映画にも俳優として出演している売れっ子なのだ。
当たり前にファンがいて、挫折や苦労もなく仕事に恵まれる。そんな奴が俺は嫌いなんだ。
しかもドラマの内容をよく見れば、最近人気が高まっているらしい、BLものだ。俺とマサヤが恋に落ちるストーリーらしい。もしも俺が売れっ子で、仕事も選べる立場なら即断っただろう。
悲しい現実だけど、俺はまだまだ駆け出しだ。10年もキャリアがありながら、最近になってやっと世間に認知され始めた存在だ。この仕事を蹴ってしまったらその後どうなるか、考えなくてもわかる。次の仕事に繋げるためには、首を縦に振るしかなかったのだ。
それから数日後、正式にドラマが決まり、1度顔合わせをしようということになった。
*****
マサヤとマネージャーが俺の所属する事務所にやってきて簡単な挨拶を交わす。といっても、会話をしているのは双方のマネージャー同士で、俺とマサヤはヨロシクと頭を下げただけ。マサヤは必要以上に喋ろうとはせず、マネージャー達の会話をニコニコ聞いては、たまに相づちを返していた。
その、妙に大人びたというか、こういう場での自分の立ち位置や答え方を心得ている感じも、やはり鼻につく。
俺より5つも年下のくせに…と、ひがみ根性のようなものが芽生えてくるから、さっさとこの場が終わってほしかった。
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