一夜の夢 (Page 2)

二人の間に沈黙が流れ、自分の発言をひどく後悔した。
こんなこと、言うべきじゃなかった。
言わなければ、レイを困らせることもなかったのに。

「…まいったな」
「こんなこと、言わないほうがよかったよな」

気持ち悪いと思われただろう。
今までずっと、なんとも思っていないふりをして、心の中ではずっと特別な目で見ていたなんて。
そんなの、裏切りだと思われたって、仕方ない。

「ごめん、もう忘れるから」

涙がこぼれそうになるのを、必死でこらえた。
レイに背を向けて、天井を見上げる。
泣いたらダメだ。レイの大切な、一生に一度のこの日を、俺の涙で汚すわけにいかない。

そう思った、瞬間。
後ろからぎゅっと、抱きしめられた。

ふわっと、レイの香水の匂いがして、胸がぎゅっと締め付けられる。
なんで、どうして。聞きたいことはいくらでもあったけど、うまく言葉が出てこない。

「…忘れなくていい」

夢にも思わなかった言葉が聞こえて、堪えていたはずの涙がいつの間にかあふれてしまっていた。

そのまま互いに向かい合って、頬を引き寄せられる。
噛みつくような口づけが降ってきて、俺はその背中にぎゅっとしがみついた。

さっきまで友達だったのが嘘みたいなキス。
当たり前のように唇の隙間から舌が差し込まれて、口内を舐めまわされる。

「…っ…ふ…ぅ」

そのままベッドに押し倒されて、首筋に噛みつかれた。
チクリとした痛みが体中を駆け巡って、思わず声が漏れる。

目の前のレイと目が合って、どちらからともなくもう一度口づける。
何時間か前に、タキシードに身を包んで永遠の愛を誓っていた新郎が、何してるんだって感じだけど。
その新郎に恋をした俺こそが、最も重罪なことには変わりない。

レイの大きな手のひらが、俺の頬を撫でる。
その唇はうっすらと濡れていて、今までずっと一緒にいたはずなのに、見たこともない人みたい。

小さな声でその名前を呼んだら、ぎゅっと手を握られた。
この先に、進んではいけない。わかっている、わかってるのに止められない。

頭の中で警告音が響くのに、心はその先を求めて胸を高鳴らせてしまっている。

「俺も、好きだった、ずっと」

その言葉を聞いてしまったら、何もかもどうでもよくなってしまう気がした。
今だけは、誰も俺たちの邪魔をしないで。今夜だけ、どうか。
日付が変わればまた、今まで通りの二人に戻るから。

レイの頬に手を添える。手のひらが重なって、二人の距離が少しずつ縮んでいく。

そして今度は、俺の方から噛みつくようなキスをした。

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