最後の夜 (Page 2)
「和さん、考え事?」
「…あー、いや…なんでもない」
「なんだよ、変なの」
祐希が俺の顔を覗き込む。
なんだか照れ臭くなってその髪の毛を撫でてやると、いつもの微笑みが返ってくる。
「最後なんだから、あんまり難しい顔しないでくださいよ」
思わずその頬に、手が伸びた。
祐希は少しだけ驚いたような表情をしたけれど、拒絶することはない。
「…和さんの手、大好きなんです」
「え…?」
「俺がしんどいとき、いつも包んでくれたから」
祐希の手のひらが、俺の手のひらに重なる。
その体温を感じて、胸の鼓動が高鳴っていく。
「…好きですか?僕のこと」
そう尋ねられて、俺は小さく頷いた。
祐希は嬉しそうな、それでいて、悲しげな表情を浮かべている。
「好きだったよ、ずっと」
「過去形とか…ずるいですね、ほんと」
どちらからともなく、互いの体を引き寄せあった。
男に興味なんかなかった俺が、後輩なんかめんどくさいと思っていた俺が、嘘みたいだ。
目の前の祐希に、触れたい。
離れたくない、ずっと一緒にいたいと、そう願ってしまっている。
「僕は、今でもずっと、和さんのことが好きです」
耳元で、祐希の声がする。
俺よりも少し高くて、柔らかい声。
この声に名前を呼ばれるのが、俺は大好きだった。
「…俺だって、好きだよ、バカ」
らしくないけれど、涙が出そうだ。
今日が最後の夜だなんて、嘘だと言ってくれ。
今まで思いを告げなかった自分を、バカだと叱ってくれ。
そんなことを思いながら、祐希にそっと口づけた。
きっとこの感触は、一生忘れない、忘れたくなんかない。
「抱いてください、和さん」
唇を離せば、そんな言葉が返ってくる。
男を抱く方法なんて知らなかったけれど、これを逃せば一生祐希に会えない気がした。
俺よりもガタイがいいくせに、抱いてくださいなんて。
なんかちぐはぐな感じがするけれど、今はそんなこと気にしていられない。
いいよって言う代わりに、もう一度口づける。
互いの舌先が絡み合って、それがはじまりの合図。
二人抱き合ったまま、ベッドに沈み込んだ。
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