太陽と月 (Page 2)
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数時間後、1人でホテルを後にしたタクマはフラフラともたついた足取りで歩いていた。
タクシー代と手渡された数枚の紙幣をポケットにねじ込んで、闇夜を進む。
『タクマと2人なら、どこまででもいける気がするんだ!』
デビューが決まったとき、リョウから言われた言葉が頭をかすめる。
『2人で一緒にてっぺん目指そうな』
そう言って、互いの拳をぶつけあって笑った。あのときのリョウの笑顔が、ガラガラと崩れ落ちていく。
「…くそっ」
小さく呟いて、タクマは空を見上げる。
暗い夜空に、ぽかりと浮かんだ丸い月が不気味な光を放っていた。
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それは、リョウがハタチを迎えて3ヶ月が経ったころだった。
レギュラー番組の収録を終えたあと、「話がある」と半ば強引に、リョウがタクマの家までついてきた。
マネージャーが運転する車内だった手前、無下にはできず、仕方なくタクマはリョウを連れて帰宅することとなってしまったのだ。
「タクマ、最近おかしくないか?」
部屋に入るやいなや、リョウにそう言って詰め寄られ、タクマはとっさに目をそらした。
リョウが不審がるのも無理はない。女性プロデューサーとの一件以来、タクマは明らかにリョウを避けるようになっていた。
「…別に。気のせいだろ」
「気のせいじゃないよ!前までは楽屋でも2人で色々喋ったり遊んだりしてたのに、最近は楽屋にいなかったり時間になるまで寝てたり、終わってからメシとかも全然なくなったし…」
「…忙しいから、疲れてるんだよ」
「そういうことじゃなくて…タクマ、僕のこと避けてない?冠番組ももらえて、これからもっと頑張っていこうってときに、タクマと気まずいとか嫌なんだよ」
その冠番組がどういう経緯で決まったのか、リョウはなにも知らない。
ただ、真っ直ぐな瞳をぶつけてくるだけだ。それがまぶしい太陽のようで、タクマには直視できないのだ。
リョウにはクリーンな世界しか見せないでほしい
汚れ仕事は自分がすべて引き受けるから
それは、リョウがハタチになったときに、タクマが上の人間に伝えたことだった。
具体的には言わなくともその意味は通じたようで、汚い大人の手がリョウに触れることはなかった。
そして、接待を意味する会食の場にはいつもタクマが呼ばれるようになった。楽しい酒の席で終わることもあれば、それ以上を求めてくる者もいて、その判断はいつもタクマに委ねられた。
間違えないように、踏み外さないように、そして、グループとリョウを守るために、タクマは汚れた大人の手に触れたのだ。
そうしていつの間にか、カメラがない場所で笑えなくなっていった。
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