再会の日に

・作

男性専門の風俗で働く良太。金のためにできることならなんでもやってきた良太だったが、ある日呼ばれた先で高校時代の親友、颯斗と思いがけない再会を果たしてしまう。良太に気づいた颯斗は、すぐに店をやめることを勧めるが、良太はその言葉をうまく飲み込むことができず…

「こんなところで働くのやめろよ、良太」

俺の好きだった声で、そんなことを言わないでくれ。
目の前にいるのは、俺がコッチの世界に足を踏み入れるきっかけになった男。

まだお互い若かったあのころ、おふざけの延長で何度も触れ合った。
颯斗にとってはただの遊びだったのかもしれない。
だけど、俺にとっては物足りなくて、もっとしてほしくて。

卒業するまで、その遊びは続いた。
けれど、結局最後まで“する”ことはなかった。

こんな世界があるんだって知ったのは、それからすぐ後のこと。

「こんなところで…って、颯斗だってこういうのを楽しんでるから呼んだんだろ」
「違う、俺は」
「俺じゃないヤツが来たら、セックスしてたんだろ」

颯斗が何か言いかけて、口を閉ざした。

*****

高校を卒業してすぐに始めた、この仕事。

好きな人と手が触れるだけで胸をときめかせていた俺は、もうどこにもいない。
客と本番をすることこそなかったけれど、“練習”と称して好きでもない男と体を重ねたことは何度もある。

薄汚れてしまった、といわれても仕方ない。
でも、俺はこの仕事のおかげで飯を食えているのだ。
大した学歴も、社会経験もない俺には、この仕事以外の選択肢がないのだ。

都心のきれいなホテル。ロビーには、品のよさそうなカップルばかり。
今日のお客様はきっと、そこそこの金持ち。そんなことを思いながらエレベーターに乗り込む。
最上階の、一番奥の部屋。たかが風俗の男のために、こんな部屋を予約するなんて。

呼び鈴を鳴らせば、品のよいベルの音が鳴った。
少しして、扉が開く。一礼して、顔を上げると、そこには。

ずっと、ずっと好きだった人がいた。

そんなこと、あってはならないはずなのに。
颯斗は俺を見て、“良太”、と俺の名前を呼んだ。
お店で呼ばれている名前とは、全く違う名前で呼んだのだった。

腕を引っ張られて、そのまま部屋の中へ。
ほとんど何が起きているかわからないまま、俺はこうしてベッドの上に座らされている。

「…キャンセルなら言ってよ、俺帰るから」
「っ…帰るなよ!」
「じゃあ何、抱いてくれんの?」

颯斗の目が泳ぐ。
あのとき、俺には最後までしてくれなかったくせに。
颯斗はもうきっと、何度も違う男と体を重ねたんだろう。

言ってしまえばそれは、俺だって同じなのだけど。
あのとき、颯斗が最後までしてくれていたら。俺だって、こんな道を選ばなかったかもしれない。

「…呆れた、俺じゃ反応しないって?」
「違う、そうじゃなくて」
「いいよ、無理しなくて」
「違うって!話ちゃんと聞けよ!」

帰ろうと立ち上がった瞬間、颯斗が俺の手を思い切り引っ張った。
俺の体はベッドへと押し付けられ、颯斗のきれいな顔越しに白い天井が見える。

「…颯斗」
「お前…いつから、こんなことしてんだよ」

その瞳は、少しだけ潤んでいるように見えた。
やわらかいふわふわの髪の毛、口元のほくろ。

ああ、目の前にいるのは間違いなく、俺が好きだった颯斗だ。

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