ぼくのつがいになってよ
小さなころからいじめっこ気質だった立花だが、誰にも言えない秘密を持っている。それは自分がオメガだということ。年を重ねるにつれ、発情を薬でコントロールできなくなっていく立花。オメガを隠し通すことに限界を感じていたとき、過去にいじめていた矢吹に偶然再会する。この再会は運命なのか?それとも…
生まれたときから、俺の運命は決まっていた。
そう思ったのは、中学3年の春のこと。
健康診断の結果と一緒に返ってきたのは、自分が“オメガ”であることを証明する書類だった。
幸い、今の医療は進歩している。
新薬が出てきたおかげで、一昔前のようにオメガがヒートを抑えられなくなることはほぼない。
自分の種別を明らかにすることも必要なくなり、差別されることも少なくなった。
「じゃあ、取引先行ってきますね」
「ああ、立花くんにかかってるからね。期待してるよ」
そのおかげで、俺は自分の努力で大企業への就職をつかんだ。
このまま勤続していけば、将来安泰。別につがいを残さなくたって、一人で生きていける。
今日の大口の取引だって成功させて、昇進してみせる。
俺の人生設計は、完璧だ。
そう思っていたのに。
「…立花…?」
「え…?」
まさか、自分がいじめていた相手に人生を狂わされるなんて。
そんなこと、考えもしなかったんだ。
*****
「…まさかこんなところで出会うとはね」
取引先の担当者は、俺が中学のころいじめていた矢吹だった。
最後に会ってから、10年以上だろうか。
その風貌は大きく変わってしまっていた。
「…矢吹」
「懐かしいなぁ、よくいじめてくれてたよね。俺の靴隠したりとかさ、陰湿すぎるって」
ガリガリで頼りなさげだったあの少年はどこへ行ってしまったのだろうか。
目の前の男は190近くはあるだろうか、という長身から俺を見下ろしてくる。
こんな男が今回の取引相手だなんて。
こんなの想定外だ。
「…昔のことは、謝る。それに、今回は俺たち個人じゃなくて会社同士の利益のために…!」
「あのさ、俺ここの会社の社長なの。立花くんみたいな一社員じゃないんだよ」
「え…?」
「別にこの契約をしようがしまいが、俺の会社は傾かないし。痛くもかゆくもない」
「い、いやでも…!」
「むしろ、これ断られたらしんどいのは、そっちなんじゃないの?」
矢吹が、机の上にある契約書に手を伸ばす。
破るような仕草を見せながら、俺のほうに近づいてくる。
「立花くんの頑張り次第で、決めてあげるよ。今回の契約」
「頑張りって…」
「散々いじめられた分、たっぷりお返ししてあげる」
強い力で手首をつかまれる。
俺はそのまま、応接室の向こうにある社長室の中へ引きずり込まれた。
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