雨上がりの朝は (Page 4)
「…ユキ、お前もいつまでもあいつのこと引きずってんなよ。エイジはお前を置いて死んでったクソだけどよ、お前がフラフラしてんのは望んでないはずだぜ」
雨の日にバイクを乗り回していた彼。勝手に事故って、勝手に死んだユキの恋人である。
そのくせ、最後の顔だけは穏やかで。
雨の日にユキが1人で眠れないのは、そんなエイジのことを思い出してしまうからだ。
「…、わかってるよ…」
もう3年の月日が流れた。それでも、ユキは未だにエイジを忘れられないでいる。
ずっと苦しいだけの彼の存在。
「お前はよくやってるよ」
篠田は煙を吐き出しながらそう言って、視線を落としたユキの頭に手を置く。それは、ただポンポンとまるで子供にする動作と同じで。
ユキよりも頭一つ大きな彼。まだ20代のくせに、ずっと落ち着いて見えるその男は、いつだってユキを放っては置いてくれなかった。
「まぁ、うちに寝に来る分には俺の売り上げになるからいいけどよ。じじいになったネコの需要はねぇぞ」
「うっさ。…まぁ、そしたら拾ってよ」
未来の約束はしたくないし、恋人ももういらない。それでも、1人の夜の時間がむなしくて、雨だって理由をつけてこの店に来る。
そんな生活を繰り返す中で、ユキはこうして穏やかに迎える朝を、いつしか手放せなくなっていた。
「ふぅん…」
「なに?きもいよ、ニヤニヤしないで」
「いやー?それよりお前、時間やばいんだから早くしろよ。俺は二度寝するからな」
彼に追い出されるようにして、ユキは部屋を出る。そんな手には彼のワイシャツがあった。
派手で、ブランドで、鼻につくそのシャツ。静かにシャツに腕を通したユキは、その場にしゃがみんだ。
エイジと同じ篠田の匂い。
「…あー、俺、駄目かも」
ずきずきと熱を持つ体。まるで抱きしめられているかのように香る香水に、ユキは目を閉じる。
「勘弁してよ…」
悪いのは全部、この甘い匂いのせいだ。
Fin.
最近のコメント