穢れなく美しい理由 (Page 4)
翼くんはソファーに座って隣を叩く。
隣に腰を下ろせば、『いただきます』と両手を合わせて食べ始めた。
まるでなにもなかったかのように。
そもそも犯されていながら逃げない理由がわからない。
快楽に堕ちた…とも思えないし。
「翼くん、どうして…」
「僕のことを『汚したい』って思うのは勝手だけど、僕はれっきとした人間だから意味ないよ」
「え?」
「好きな人とのセックスなんて気持ちいいだけでしょ」
トーストにかじりつく翼くんは、チラリと俺を見上げる。
「好きな人…? 翼くん、俺のこと好きなの?」
「嫌いだったらあんたを心配して家にこないでしょ。それも一人で」
「そう…なのかな?」
「ゲイで、僕のことを『きれい』って言う奴はたいてい襲ってくるから警戒してるし」
「え?」
「それに今、ここにいるのが答えでしょ。あんたに襲われたのにいるじゃん、ここに」
日差しに透けて輝く彼の髪の毛が、窓から入る風になびいた。
さわやかで、でも甘い匂いが鼻をくすぐったとき、翼くんの顔が近づく。
そしてふわりと唇に柔らかなものが重なった。
「好きだよ、セナ」
「…俺でいいの?」
「なにが?」
長いまつげがあがり、澄んだ瞳が真っ直ぐ俺に向けられる。
どこもかしこも美しい彼が、汚い心を持った俺を好きだという。
「俺は翼くんを汚したいって思ってるんだよ。好きなんかじゃ足りない。俺は歪んだ気持ちをもって君を愛しているんだ」
「うん」
「本当にわかって──」
すると翼くんは柔らかく笑った。
「僕は汚れないよ。あんたがいつまでもそう思ってるうちは、ね」
「どういう…?」
すると彼は自身の首を細長い指先でなぞり、膝を抱えながらくしゃりと笑う。
「ナイショ」
人差し指が淡く色づく唇に触れる。
たったそれだけなのに、俺はまた彼の美しさに魅了された。
穢れることのない美しくきれいな彼に──。
*****
最近のコメント