友だちでいようだなんて (Page 3)
「三渕、しっかりしなよ」
玄関のドアを閉めると三渕がよろけた。狭い玄関だから、三渕に壁ドンされた状態になってしまう。
「三渕、重い。…とにかくここじゃなくてさ、部屋に上がろう」
三渕の腕をどけようとしたけれど、抱きかかえられるみたいにがっちりホールドされてしまった。ふざけるなよー、と三渕の体を押し返そうとした、その時。
アルコールの匂いを含んだ息が頬にかかるのを感じた。
とろんとした三渕の目が、どんどん近くなる。鼻がぶつかりそうになり、思わず目を閉じる。
マスク越しに鼻筋を柔らかいものになぞられた。その熱さに体が反射的に震えてしまった。
三渕の唇…。
鼻筋からマスクの縁をなぞられたかと思うと、まぶたに柔らかな感触を感じた。
背中に回されていた三渕の手が、僕の体を撫でるように動く。コートの裾から差し込まれた大きな手のひらに腰を撫で上げられる。
「…あ、…!」
体がびくっとして、思わず声が出た。
「友だちって便利な言葉だけど、すごく不自由だ」
三渕が低く言った。
「友だちでいようって、俺がどんな気持ちで言ったかわかるか?」
「…そんなの、…わかるか、…よ」
体が熱くて、息が苦しい。
「わからないよな」
耳たぶに小さな痛みが走る。ちゅっ、という音に体中を刺激される。
「細川。俺が好きだろう?」
思わず目を開ける。
アーモンドのような形をした三渕の目が熱を帯びているような気がした。
「…好きって、…そう言ったら。どうするんだよ」
声が震えているのがわかる。鼻の奥が、つん、とした。これ以上しゃべったら泣いてしまうかもしれない。
「好きって言って」
「友だちでいようって言ったのは…、三渕だ」
「それでも。言って」
まっすぐな瞳でこんなに近くで見つめられてしまったら、嘘なんてつけない。
「…す、き…」
三渕は僕のことをどう思ってるのと訊こうとして…。三渕の指にマスクを外され、唇を塞がれた。
コートの中で忙しく動いていた三渕の手を肌に感じた。下着の中にするりと差し込まれた手が尾骨をかすめる。思わず、ぎゅっと三渕の腕をコートごと掴んでしまった。
三渕の唇が外れ、小さくうめいた。
三渕の胸を両手で押し返す。
「ちょっと…、待って。…ここ、…玄関」
誰が通るかわからないし、声が聞こえてしまったら恥ずかしい。
「ここじゃだめか?」
熱を持った三渕の目に見下ろされて、僕は唇をかむ。三渕はこういう行為は慣れているだろうけど、僕は三渕とは違う。初めてだし…。でも、はっきり言うのも何だか悔しくて、バカ、と呟いた。
三渕が突然、頬をすり寄せてきた。そして、目をのぞき込まれる。アルコールのせいなのか何なのかはわからないけど、三渕の目はきらきらと揺れていた。…犬がお願いをするような目をしていたから、僕は小さく頷いた。
三渕の背中にそっと手を回す。
優しくするから、と三渕が呟くので、僕はもう一度「バカ」と返した。
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