魔法では消せない壁 (Page 2)

「さて、ご主人様、今日はどうしてほしい? このまま手首を縛ってやる?」

 冗談交じりにそう言うと、白い肌を赤く染めてアーティは小さく頷いた。

「変態なご主人様だね」
「ガルニエ。……今はそう呼ばなくていい」

 そう言いながらも射るような視線を放つアーティは、まさに主人であり王族の人間特有の、従者への命令のトーンだ。

 ガルニエは返事の代わりに呪文を呟いて、目下に無防備に体を投げ出したアーティの体に赤い縄を巻き付かせた。腕に、胸に、腹に、下腹部から脚の付け根に、シュルシュルと摩擦音を立てて這わせた。部屋着でぼやけていた体の線がはっきりとして、発情の象徴が存在感を主張していた。

「ん……っ」
「くすぐったい? それとも、もう気持ちいい?」

 蛇のようにくねりながら全身に巻き付いていく縄。ひし形に結び目を作っていき、性器と胸を強調させるように縛り上げた。

「……っ、くすぐったい」
「本当にそれだけ?」

 締め付けをキュッと強めると、ぴくんと体を震わせながらも恍惚(こうこつ)とした表情をして、アーティは眉を寄せた。

「う……、嫌だ、焦らさないでくれ……」
「もっと刺激が欲しいんだ。本当に変態だね。そうだ、いっそのこと魔法でその快感を倍増にしてあげようか」

 ガルニエはアーティが魔法に憧れていることを知っていた。憧れ、そして自分がそれを使えないことに不満と嫉妬をしていることを、長い付き合いの中で察していた。

 だから、こういうときに魔法を使うようにしてきた。より身近に魔法を感じられるよう、魔法という特別なものをガルニエの独り占めにしないよう、共有の意味を込めて使ってきた。

 そうしていたら、アーティはまるでパブロフの犬のように、魔法を使っただけで欲情するようになった。最近はガルニエの声を聞くだけでも情事を思わせて体を火照らせたりするほどに、依存に似た条件反射をするようになっていた。

「さあ、アーティ。どうする?」

 ギュウと力の入った唇に指を乗せ、その薄い膨らみをなぞる。アーティの唇は荒れのない滑らかなものだったが、ガルニエのあかぎれになった指先が、ザラ、と微少な刺激を与えた。

「んっ」
「判断が遅いよ」

 手のひらをアーティの脳から性器にかけて、呪文を呟きながらかざした。快感の信号をより敏感に受けとるよう、感覚を直結させたのだ。

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