画面越しの彼よりも (Page 3)
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翌日、スーツに着替え仕事に向かった春樹は、いつもより混んでいた電車に少し具合悪くなって、降りるはずの駅より2つ前の駅で降車する。
大抵、朝は電車が混む前に家を出るのだが、昨日はなかなか眠れず、朝も寝坊してしまった。
タクシーに乗ればまだ朝礼には間に合う時間のはずで、その前に春樹は駅のトイレに向かう。
気持ち悪さに、一度吐いてしまいたかったのだ。
「っ、おっと、すまん」
そんなとき、春樹は前から来た人にぶつかってしまい、めまいがしてその場にしゃがみ込む。
ぶつかってきた男は心配そうに春樹に声をかけた。
「大丈夫?どっか打ったか?」
ふと、そんな声に体が熱くなる春樹。
…まさか。
春樹は視線を上げて彼の体を眺める。
スーツ越しだが、彼は引き締まった体で。
「すまないが、俺も仕事に急いでいて、時間がないんだ。大丈夫そうなら、俺は先に行くぞ」
何より彼の聞き慣れた声。
「…シマ、でしょ?」
そう問いかけると、男は少し考えるようにして、春樹の体を見つめた。
「サイトのやつか?…わからん、名前は?俺と何曜日に連絡してる?」
春樹はそこで、自分は彼の数多くの相手のうちの1人だと知らされる。
曜日で管理されてるんだと気付いて、ふと瞳に涙を溜めた春樹。
彼に答えを告げないまま、その場を逃げ出した。
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その日は、結局、仕事を休んで。
駆け込んだネットカフェで泣いて過ごした春樹は、その日のうちに彼との連絡先を消した。
すっかりまぶたを赤くした春樹。
明日こそは仕事に出ないとならないため、夜遅くなってから、目立たないように下を向いて終電に乗る。
…あんな男、忘れてしまおう。
帰ったら、もらったおもちゃも下着も全部捨てて、パソコンの履歴も消して…そう考えていた春樹だが、すぐに違和感に気付いた。
車内には人がまばらで。なのに酒臭い年配の男が1人、春樹の後ろにベッタリとくっつくようにして立っているのだ。
「あんた、肌綺麗だな。それにいい匂いがする」
そう言って、春樹のスーツ越しに身体を触ってきた男。
恐怖で春樹が辺りに視線を向けても、乗っているまばらな客は気づかないふりをしたり、眠っていたりとさまざまだ。
「っ、辞めてください」
「いいから、少し触らせろって」
男の力は弱まらず、ドアに押し付けるように、春樹の体を押さえつけて…そこで、春樹はあの日の光景がフラッシュバックする。
仲のよい幼馴染を中心に、春樹を押さえつけて、服を脱がそうと息を荒くしていた男たち。…そして、春樹の体を何人もの手が触れてきて。
「嫌ッ…辞めて…」
ガタガタと震えてその場にしゃがみ込む春樹。
男は流石にやばいと思ったのか、引き攣った顔をしながら次の駅で降りていく。
周りに乗っていた人たちも皆、降りたり、車両を移動したりと様々で。
春樹は結局、動けないまま。
そのまま降りるはずの自宅近くの駅を乗り過ごした。
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