美味しいものは、後に取っておいて (Page 3)
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「…やべぇな」
翌朝、目覚めた志島は二日酔いで痛む頭を押さえながら、汗と精液でベタベタの体の自分を眺める。
そうして、青白い顔で同じように汚れた体で眠っている白雪。
「やっちまった…」
正直、友人達と酒を飲んで別れてからの記憶はない。
ただ、どう見たって自分が彼を襲ったのは確かで。
彼の体を抱き上げ、風呂に入れてやり体を洗ってやる。
幸い無理をしなかったようで、後ろは裂けたり、腫れている様子はなくて安心したものの。
目覚めた彼に、どう説明するべきか、志島は頭を抱えた。
「本当に悪かった」
すっかり泥のように眠っていた彼が目を覚ましたのは夕方のことで。
そんな彼に頭を下げる志島。昨日の記憶がないことと、無理をさせたことを謝れば、彼は困ったように笑っていた。
「…そっか、覚えてないんだ」
「正直言えば、夢を見てる気分だった。だからぼんやりとだけ、お前の姿は覚えているんだが」
今更、そんな言い訳をしたって許されるわけもなくて。
志島はもう一度頭を下げる。
「本当にすまなかった」
「…っ、バカだよ、志島さん。俺だって男だもん。いくら志島さんが力強くても、俺、嫌だったらちゃんと抵抗できたよ」
志島の頬を挟むようにして、彼が手を伸ばしてくる。
そうして、志島は彼に促されるまま視線を合わせた。
「俺だって、好きだから抱かれたの!だから、俺を被害者にしないで」
彼の大きな瞳に涙がたまって、志島は息を飲んだ。
「でも、…こんな、歳上のガラの悪い男を、お前が?」
「俺にとっては格好よくて、…そして可愛い人だよ。また、一緒にご飯食べてくれる?」
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それから、白雪とは共に暮らすことになった。
虫が出なくなった綺麗なアパートに住み始めた2人。
しかし、白雪は別に虫がすごく苦手だったわけじゃなくて。
「あぁしないと、接点持てなかったから」
あのころから、お互いに片想いをしていたようで。
彼はあっけらかんとそう話していた。
ただの隣人同士だった最初。
そういえば、初めて彼に声をかけられたときも、虫を倒してほしいと泣きつく彼がインターフォンを押してきたのだ。
どう見たってガラの悪い志島の姿。
生まれつき顔が怖い父親に似て、志島も無愛想な顔になり。そんなきっかけからか、学生時代もあまり友人はできなかった。
しかし、白雪とはそんなやりとりをきっかけに、人懐っこく距離を縮めてきて。
顔を合わせれば会話をしたり、お互いの部屋に行き来したり。
志島が最後まであの取り壊しのアパートに残ったのも、そんな彼との日々から離れがたかったのもある。
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