僕の双子の弟が最悪で困っています
僕、桂(かつら)の双子の弟、樹(いつき)が元気をなくして帰ってきた。樹は同性の恋人とお泊りの計画を立てていたのだが、帰されてしまったのだ。桂は樹を奥手だと思っていたので、やりかたを教えると提案したのだが「抱いていい?」と樹に言われてしまい…。
「ただいまー」
元気のない声が玄関から聞こえてきた。ドアを閉める音も弱々しい。
時計を見ると…、11時30分。
あと30分で日付が変わるというのに、この時間に帰ってきたということは…。
「樹(いつき)、おかえり」
「うん…」
樹は持っていたトートバッグを静かにソファに置く。無言で僕のとなりに座り、テレビのニュース番組をぼーっとした様子で見ていた。
どうやら樹のお泊り計画は、うまくいかなかったらしい。
「樹、何か食べる?」
「大丈夫。食事はしてきたから」
「外食? 今日はどこへ連れて行ってもらったの?」
「家永(いえなが)さんのところだよ」
そこまで言うと、樹はがばっと両手で顔を覆った。
「どうして…、なんにもしてくれないんだろう。何でっ?」
樹の黒目がちの目がうるんでいる。
…何もなかった理由を僕に言われても困るんだけど。
*****
僕の双子の弟、樹に恋人ができたのは3カ月前のこと。家永さんという、6歳年上の証券マンだ。
樹の話から察するに、家永さんは真面目でお堅い人のようだ。3カ月でキスまでという状況に樹は焦れていて、明日は休みというタイミングで家永さんともっと深い関係になろうという計画を立てていたのだ。
それが今日、だったわけで…。
「家永さんとお泊りしてくる!」
きらきらした目で家を出た樹だったけど、今は正反対だ。
「家永さんに12時前には帰りなさいって言われたのか?」
樹が大きく頷く。
どこかの童話じゃあるまいし…、という考えが頭をよぎる。
「桂(かつら)ちゃんは付き合う人と体の関係を持つのが早いよね? どうして?」
「そんな理由、わからないよ。自然とそういう状況になるんだからさあ」
自然の、「ぜ」と「ん」のあいだを長く伸ばして言った。
樹は納得がいかないとでもいうように、唇をちょっとだけ突き出す。
「…ちょっと聞くけどさ、樹は男同士の経験がほぼなかったんじゃ…」
「知ってるよっ!」
樹が突然立ち上がった。
「桂ちゃんほどは知らないかもしれないけど、僕は男だよ? それに桂ちゃんを見てればわかるからねっ」
樹の顔が近づいてきたかと思うと、どん、とソファに押し倒された。
「僕を見てって…」
大きな声を出しそうになったけど、時計が目に入り、僕は声のトーンを落とした。
「僕が樹に何を見せたんだよ。変なことを言うな」
家永さんと知り合ってから6年間、樹は家永さん一筋だ。経験がないと思われる樹が心配で言ったのに、何をむきになってるんだか…。
覆いかぶさってくる樹のシャツを掴む。
「じゃあ、今から僕としよう。やり方を教えてやるよ」
樹が驚いたように目を見開く。
僕は笑ってやった。
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