初恋
幼稚園から大学までをずっと一緒に過ごしてきた幼馴染のお話です。最初はすれ違いもあり、少し切ない描写もありますが、全体を通して甘い雰囲気でハッピーエンドです。不良でツンデレな攻めと可愛い受けが好きな方におすすめです。
僕の毎日の日課。幼馴染の家にノートのコピーを持ってくること。
いつものように玄関のチャイムを鳴らして、おばさんの声がインターホン越しに聞こえる。
名前を言うと、今開けるわね!って軽快な声が聞こえてくる。
「壮太くん、いらっしゃい!上がって!」
「え、いや…今日もノート届けに来ただけなんで…」
「いいからいいから!おいしいおやつあるから食べて行って!」
半ば強引に、家の中に引きずり込まれた。
幼稚園から、小学校、中学校、高校、今年大学に入学するまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染の恭介。
もう大学生になったんだから、ノートなんて持ってくる必要ないのかもしれないけど、僕はずっと恭介を放っておけないでいる。
ずっと一緒だった僕たちだけど、性格はまるで反対で、高校の途中から恭介はいわゆる不良グループとつるみ始めた。
もちろん、だからと言って僕とまったく話さなくなったわけではないけれど、そのころから恭介は、僕にあまり本音をぶつけてこなくなった。
「これ、壮太くん好きって言ってなかったっけ?駅前のケーキ屋さんのシュークリーム」
「あ…!そうです!おばさん、よく覚えててくれましたね」
「ふふ、違うのよ、恭介に聞いたの」
「恭介に…」
外では話さないくせに、たまに会うと優しかったり、おばさんから聞く恭介の様子は何も変わらず、僕を心配してくれていたり。
そんな様子を聞いてしまうからこそ、僕はまた彼のことをなおさら放っておくことができないと思うのだった。
トントントン、と階段を下りる足音が聞こえてくる。
恭介の足音だと、すぐに分かった。
リビングのドアがガチャリと開いて、僕は食べていたシュークリームを一度お皿に置いた。
「…来てたのかよ」
「こら、そんな言い方しないの!」
おばさんに制されて、恭介が不機嫌そうに口をつぐんだ。
そのまま僕の隣の席にドカッと座って、机の上に置いてあったお茶を喉を鳴らして飲む。
機嫌を損ねてしまっただろうか。そんなことを思いながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、早く帰ろうとシュークリームを口に押し込んだ。
「じゃあ、恭介行ってくるから。壮太くんと仲良くすんのよ!」
「…へーへー」
「えっ…?!」
口に頬張ったものを噛んでいる間に、おばさんは急いで出て行ってしまった。なんということだ、すぐに帰ろうと思ったのに、こんなの想定外だ。
リビングに残された僕と恭介の間に、妙な空気が流れる。テーブルの上に置いてあるティッシュを1枚とって、口の周りを拭う。ようやく飲み込んだシュークリームが、喉の奥につっかえるような気がして、持っていたペットボトルのお茶で一気に流し込んだ。
「あ、あのこれ、今日のノート!じゃあ!俺帰るから!」
そう言ってクリアファイルに入れたノートのコピーを恭介の目の前に置いた瞬間、手を取られた。突然の出来事に、はっとして胸がドキドキするのがわかった。
「…もうちょい、ゆっくりしてけよ」
「え…、でも…」
「いいから。どうせ予定もないんだろ」
的を射たことを言われて、僕はこくりと頷くことしかできなかった。
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