傷は善意で埋まらない (Page 2)
バスローブを緩めて、肌をくすぐる。何度も仕事をこなして、回数を重ねてきて、これには自信がある。けれど、シオンさんの反応は硬かった。
「…初めてですか?」
シオンさんはぎこちなく頷いて、目を逸らした。
「すみません、面倒くさいんですよね」
「大丈夫。優しくしますね」
全身をほぐして、無駄な力を抜いていく。
「ここ、触ったことあります?」
指先でピンク色の胸を掠めると、わずかに身体が跳ねた。
頷かない代わりに顔を赤くしているのを見て、舌先での刺激に切り替える。
「っ…うあ、っ…」
「気持ちいいですか?」
「あ、は…わかんな、です」
「そうですよね。こっちがいいかな」
とろんとしているシオンさんがその言葉を飲み込む前に、性器に触れた。
「うあ、はぁ…っ」
「一回出しておきましょうか」
人に触られる羞恥心からか、シオンさんは腕で顔を覆ってしまった。
「ん、んっ…!」
「かわいい」
この『甘やかし』は通用しないだろうか。シオンさんは顔を腕で覆ったまま背けている。
「はぁっ、ああ、う…!」
吐き出された欲は濃厚で、普段こういう行為をしていないようだった。
「気持ちよさそう。嬉しいです。次、こっち触りますね」
おしりに触れると、そこは硬く閉ざされていた。
ローションを手に取り、じわじわとほぐしていく。
「っ、うぅ…」
「苦しいとか、痛いとかあったら教えてくださいね」
「だ、だいじょぶです」
言葉とは裏腹に、険しい顔をしている。圧迫感に慣れないのかもしれない。
「ちょっと、緊張してるだけです」
「…」
手酷く振られたあとの、自暴自棄。この仕事をしているとよく目にする。
なにかを断ち切るための儀式なのかもしれない。けれど、簡単に自分を切り捨てて人生をやっている俺には、その覚悟の重みが、わからない。
「…やっぱり、やめませんか」
「へっ? うあっ」
指を抜き、唇にキスで触れた。
瞳がとろけていることを確認すると、舌で口内を探る。
「ふむ、あわわ、わ…!」
「はは、キスされてるのに賑やかですね」
「だって、なんで、びっくりして」
この人にはもっと、ふさわしい状況が、舞台がある気がした。
そして、俺ならそれを用意できるとも思った。
そっと上体を起こして抱きしめる。
「大切にしたいと思いました。シオンさんのこと」
「いや、だから、そんな甘言には」
「違うんです、ただのわがままだ。今のあなたを失いたくないんです」
今強引に消し去れば、他の大切ななにかまで奪ってしまいそうだ。
「過去を忘れたいなら、違う方法で忘れさせます」
自分でも突飛なことを言っている自覚はあって、それでも夢を見ているみたいに、歯止めが効かなかった。
「まずはぬいぐるみとしてでも、俺を認めてくれませんか」
シオンさんは、瞳を右往左往させてうろたえた。
*****
俺はまた、ぬいぐるみの姿勢を作り、シオンさんは足のあいだに収まった。
「俺の最後の仕事です」
「…!」
お互いの性器を擦り合わせる。
「はぁっ、んん、う」
シオンさんは、胸元で小さく拳を作っている。快楽にゆがむ表情を、目に焼き付ける。この先を期待してしまうほど、熱が上がっていく。
「今は、これで…っ」
「あぁ、は、あ、っぅ!」
「はやく、俺を好きになってください。俺もきっと、あなたを好きになる」
「そ、なの、おかしっ、ぁあっ」
「それでも…! 大丈夫です、俺達なら」
細い腕がしっかりと、俺を抱きしめているのを感じる。
「うぁ、あぁー…っ」
「っ…くっ、は…」
傷ついた青年とぬいぐるみは、少しずつお互いの居場所を認めてゆく。
Fin.
最近のコメント