新婚初夜は愛欲に満ちて
25歳の誕生日、瑠衣は幼なじみの渉にプロポーズされる。20年前の結婚の約束を一途に守り、真剣に瑠衣を愛する渉と、戸惑いながらもその気持ちが嬉しい瑠衣。一緒に暮らすことになった二人は、初めての夜、初めての快感に溶けてゆく――。
「…渉、今、何て言った?」
自宅の玄関先で、僕、早川瑠衣は呆然と聞き返した。
休日だというのにスーツ姿の友達、柳瀬渉は、手にした花束をこちらに差し出しながら真剣に繰り返した。
「誕生日おめでとう。結婚しよう、瑠衣」
*****
僕と渉は幼なじみだ。
初めて出会った5歳のときから25歳の現在に至るまで、一番の親友として付き合いを続けている。
同い年ではあったが、渉は大人びていて落ち着いた性格をしているため、僕にとっては頼れるお兄さんのような存在だ。
それが何故、突然プロポーズなんてことをしでかすのか…。
「突然じゃない。ずっと昔から約束してただろ」
取りあえず家に上げたものの、渉は態度を崩さなかった。
「昔って…」
「5歳のときだ。大人になったら結婚しようって誓い合ったぞ」
「5歳…ごめん、僕、覚えてないや」
子どもの頃の僕は甘えんぼで、常に渉にくっついていたから、そんな約束をしていたとしてもおかしくはない。
でも、そんな幼いときの誓いを、本気にするなんて…。
「それに、瑠衣が20歳になったときに、確認したはずだ」
「えっ?…あっ、もしかして…」
それについては、思い出すことがあった。
僕の20歳の誕生日。
家族での祝いの席に、渉もいて。
初めてのお酒でフワフワしていた僕に向かって、渉は悔しそうに言ったのだった。
「瑠衣。大人になったとはいえ、お互いまだ学生だ。俺にはまだ瑠衣を守る力が足りない。5年後、必ず迎えに行くから。待っていてほしい」
その言葉を聞いた僕は、何言ってるんだ渉、迎えに行くって、しょっちゅう会ってるのに、と取り合わなかった。
アルコールのせいもあって、渉の言った意味をよく考えていなかったんだ。
「…渉はずっと、僕と結婚する気だったってこと…?」
「そうだ。今日ようやく、迎えに来れた。男同士だから婚姻は結べないけど、その分、瑠衣を大事にしていくから」
きっぱりと答える渉。
ど、どうしよう。
僕を想ってくれるのは嬉しいし、渉のことは好きで、何でどっちも男なんだろうって思ったことはあるけれど、いきなり結婚なんて…。
「いいんじゃないの?」
沈黙を破ったのは、僕たちの会話を聞いていた母だった。
「渉くん、昔から誠実で、瑠衣を大切にしてくれてたじゃない。大企業の主任さんだし、こんないい相手もいないわよ。あんたってボーッとしてるから、変な女に引っかかりそうで心配だったのよね。もらわれちゃいなさいよ」
「母さん!?」
母は普段から渉を高く買っているので、この唐突な結婚話にも賛成のようだ。
「お義母さん、俺は必ず瑠衣を幸せにします!」
「渉!?」
何だか乗り気な二人に押し切られるように、僕と渉の結婚が決まったのだった。
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