欲望の花は鮮やかに咲いて

・作

草壁真澄(くさかべますみ)が働くフラワーショップに、年下の常連客・島崎龍二(しまざきりゅうじ)が花束の注文にやって来た。意中の相手に愛を告白するらしい。張り切って花束を作る真澄。だが、龍二が恋をしている相手は、実は真澄だった。真っすぐに気持ちを伝えてくる龍二に、真澄は…。想い乱れる恋物語。

「清楚で優しくて、可憐な花のような人なんです」

色とりどりの花が並んだ、フラワーショップの店内。

恥ずかしそうに話す男性客を、店員の草壁真澄は目を細めて見つめた。

客の名前は島崎龍二。

外資系コンサル企業に勤める会社員で、真澄の3つ年下の25歳。

半年前からこの店に通うようになり、テーブルに飾るミニブーケを買い求めにやってくる。

花のことをよく質問してくるため、真澄とはすっかり顔見知りだ。

今回、龍二はプレゼント用の花束を注文してきた。

「綺麗な花を贈って想いを伝えたくて…。俺、その人のことが好きなんです」

龍二の真摯な気持ちに、真澄は心打たれた。

「わかりました。僕にお任せください。素敵な花束を作りますね」

意外と力仕事の多いフラワーショップの業務の中で、花束作りが真澄は一番好きだ。

愛の告白で使うとあれば、一層やる気が湧いてくる。

「清楚で優しい」のイメージから、真澄は白バラと星の形をした青い花、ブルースターを選んだ。

カスミソウを添えて、可愛らしい雰囲気を出す。

「こちらでいかがでしょうか」

完成した花束を差し出すと、龍二は照れたように笑った。

「ああ、イメージ通りですよ。さすが、真澄さん」

「それはよかったです。告白、頑張ってくださいね」

会計を済ませ、龍二を見送る段になった、が。

「あの…真澄さん」

何故か龍二は店を出て行こうとはせず、花束を抱えて真澄を見下ろした。

「あれ、どうかしましたか、島崎さん?」

龍二は意を決したように頷くと、花束を持った腕を真っすぐに真澄へと伸ばした。

「えっ?」

「これを、あなたに…」

「えっ?えっ?」

混乱する真澄に、龍二はきっぱりと告げた。

「真澄さん、ずっと好きでした。俺と付き合ってください」

*****

閉店作業を終えたフラワーショップの店内。

仕事用のエプロンを外した真澄は、バケツの水に漬けていた龍二からの花束を手に取った。

結局、仕事中ということで告白の返事は保留にして、花だけ受け取ったのだった。

自分の作った花束を見つめて、真澄は困惑の表情を浮かべる。

快活で素直な龍二に好ましい印象を抱いてはいたが、それは恋愛感情ではなく、弟を見るような気持ちだった。

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