編集担当との再現セックスが官能小説家に与えた感情
執筆中の小説の先が浮かばず、焦る江間七雄(えまななお)。そんな彼へ編集担当である城島幸馬(きじまこうま)は、「浮かばない場面まで再現すればよいのでは?」と提案をする。女性経験はあるが、ノーマルな七雄に男性経験はない。そんな七雄を前にしても、幸馬は引き下がらなかった。
官能小説の執筆を職業とする僕、江間七雄はかなり焦っていた。
キーボードに置かれたまま静止する10本の指先。
文字の入ったかぎかっこの下でチカチカと点滅するカーソル。
「…ダメだ、何も浮かばない」
パソコン画面に向かい始めてから、何度そう呟いたかわからない。
話の流れをまとめたのに、内容がまとまらず時間だけが過ぎる。
残りは2人がセックスを終えた後の場面だけ。
原稿の締め切りは明日。
「ここまで来たのに…」
最後の最後で期日を過ぎるかも知れない悔しさに、そう溢しながら内心で舌打ちした。
「お疲れ様です、江間先生」
危機感や焦燥感で一杯になっていると、それらを煽るような声が聞こえてきた。
真っ直ぐ足音が近付いてきて、ガチャリとドアの開く音が背後でする。
それに反応して、反射的に顔を後ろに向けた。
「こちらに居たんですね。明日が締め切りですが、原稿の方はどうですか?」
視線を合わせて満面の笑みでそう問うのは、僕の編集担当である城島幸馬。
「…まだ完成していません」
素っ気なく低く呟きながらパソコン画面へ顔を戻した。
「まだって、締め切り明日ですよ」
「それはわかってますが…」
先が浮かばないのだからどうしようもない、という言葉はグッと飲み込んだ。
残りはワンシーンだが、ここまで来たら明日までに間に合うのかも不明確だ。
「あの、城島さん」
「締め切りなら延ばしません」
言いたかった言葉を先に言われ、ぐうの音も出なかった。
「…思い浮かばないんですか、先が」
「…はい」
申し訳程度の虚勢を剥がされ、心中で白旗を上げながら答える。
すると今の状況を丸く収める対応策でも考えているのか、城島は難しい顔していた。
室内に大きく響く秒針の動く音を聞きつつ、僕は彼の答えを待った。
どれくらいかそんな感じで現状の変化を待っていると、城島は唇を動かした。
「実際に再現してはどうでしょうか、思い付かない場面に行き着くまでを」
「…は?」
緊張感が抜けた表情でされた突拍子もない提案に、僕は気の抜けた返事を溢した。
「ちょっと失礼します」
マウスに手を伸ばすと、カチカチ音を立てながらカーソルと眼球を動かした。
「…江間先生となら、問題なく再現できます」
「えっ、ちょっと…!」
30分後くらいに溢された言葉の意味を理解する前に、城島に腕を引かれてバランスを崩される。
「えーっと、それでこうか」
1人で自答しながらベッドサイドに座ると、されるがままの僕の体を抱き上げた。
そして、自身の体に跨らせて対面座位の体勢を取らされた。
ここまで来て、やっと城島の意図を理解した。
「…まさか、本気で再現するんですか?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか」
「いやでも、僕も君も男じゃないですか」
「失礼ですが江間先生、経験の方はございますでしょうか?」
「何のですか」
「セックスのです」
その一言に羞恥で顔までカッと熱くなっていくのを感じた。
そんな僕の反応を見て、城島は少しだけ口角を上げて妖し気な笑みで掘り下げてきた。
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