社内のツートップが社長室で繰り広げたピンクでブラックな秘め事

・作

父親から継いだ会社の代表取締役を務める志田智樹(しだともき)。智樹は秘書で恋人でもある灰田瑛二(はいだえいじ)に突然、解雇命令と共に別れを告げた。横暴で突然の言葉に瑛二が出した答えは?また、智樹が公私共に瑛二との関係を断とうとした理由とは…?

父親の会社を継ぎ、とある企業の代表取締役となった志田智樹。

そんな彼には心身共に深い関係の人物が居る。

秘書で恋人の灰田瑛二だ。

仕事とプライベート。

1日の大半を共有する中で智樹は気付いしまった。

瑛二で頭が一杯になる自分が居ることに、瑛二なしで生きられなくなっている自分が居ることに。

経営者の責任を果たす義務がある智樹にとって、そんな依存や執着は恐怖で不安だった。

*****

「…意味が理解できないのですが」

言い渡された辞令に、瑛二は公的な言葉で反論した。

秘書らしく落ち着いた声調だが、その表情には困惑が浮かんでいた。

「君を本日付けで解雇する。そのままの意味だ」

デスクの書類に目線を向けたまま、智樹は口だけを動かす。

そんな言動を受け入れられるはずもなく、瑛二はデスク越しに彼へ詰め寄った。

「突然過ぎです、納得できません」

「荷物は後日、お前の住所に送っておく。次の就職先も保証する。だから、明日からもう来なくていい」

「解雇の理由をお聞かせください」

(解雇の理由…)

矢のように鋭い問いへ自答するより先に、智樹はペンを置いて立ち上がると瑛二と目線を合わせた。

「これは決定事項なんだ。今日までご苦労様。次の仕事まで休養でも取るといい。それと…」

そして彼はもう1つ告げる。

「今日で君とのプライベートな関係も終わりだ。今まで、ありがとう」

私情関係までの横暴な取り決めに、瑛二は下唇を噛み締めたまま智樹を凝視した。

ピリピリとした緊張感を含んだ沈黙が空間内を支配する。

表情から何を言いたいのか明白だったが、瑛二の唇から応えが出されるのを待った。

それを待つ智樹の表情も何か言いたげで複雑だった。

「…承知しました」

幾分かの沈黙を先に破ったのは瑛二の応えだった。

(これでいい…勝手ですまない、瑛二)

望んでいた従順な返事に胸を撫で下ろしながらも、申し訳なさを感じている時だった。

「しかし恐れながら、1つだけ条件がございます」

「条件?」

語尾を上げて同じ言葉を口にすると瑛二は言った。

「ここからは敬意を省かせて頂きますが、最後の無礼だと思ってお許しください」

気持ちを切り替えて緊張を解くように深呼吸を1回だけすると、彼は答えた。

「最後にもう一度だけ抱かせてほしい、智樹」

予想外の内容に、彼の表情が驚きで一杯になる。

「そうしたら全部、終わりにしてやる」

(それで身を退いてくれるなら…)

「…わかった」

真っ直ぐな目を向ける瑛二の条件を静かに受け入れると、智樹はカギをそっと閉めた。

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