美味しい恋人 (Page 5)
「カホ、これ…オレか」
「わかっちゃった?」
だってあの背中はカホがベッドでオレを待っているときの姿だ。
それに正面側は、カホがオレに抱かれて見上げているときの。
「自分に押し倒されそうなイメージが湧いて驚いた…」
「あはは! いくらジュンヤさんでもそれはだめ! あのね、僕を愛してくれる恋人はこんなに綺麗なんだよ。だからこれを描いてるとき、すごく幸せだったんだぁ」
モデルが自分だとうぬぼれでも何でもなかった。
カホの目にはこうしてオレが映っていたのかと初めて知った。
言葉の一つもなくたって、全身でカホが愛おしいと伝えているような姿も。
「ジュンヤさん?」
「…参った」
「なにが?」
「思いっきりキスしたい」
「…! 僕も!」
着物姿で飛びついてきたカホを抱きとめて、思わず2人で笑ってしまった。
*****
その後、展覧会は日本全国の美術館で開催されることが決定したほど大成功だった。
しかしオレの絵について、さまざまな憶測が飛び交いニュースを騒がせたことはそっとしておきたい。
Fin.
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