お前しか届かない
俳優のアオイとアイドルのカオルは、お互いの仕事に差し支えないよう、厳しいルールを守っている。そんな中カオルが提案したのは玩具を使うというイレギュラーだった。そこから滲むカオルの悩みに触れたアオイは、また一つカオルの好きなところを見つけてしまった。
それは、とある晩のこと。
「じゃじゃーん! 今日はこれを使ってみよう!」
恋人が、大人の玩具を買ってきた。
「なんで…?」
「ほら、飽きが来るとよくないかなって。ネットで見たんだ、倦怠期がどーのこーの」
「そんなの気にするなよ…」
あきれたが、しかし。
日頃から『キスマーク禁止』『2回目禁止』『乳首禁止』その他もろもろ、恋人に厳しい制約を設けている俺には、少しくらい願いを聞き入れる姿勢も必要に思われた。
「…まあ、いいけど」
「やった!」
飽きを感じているのは、もしかしたらこいつの方なのかもしれない。
いつも通り優しいキスをされて、全身を愛される。
内側がうずいてくると、丁寧におしりをほぐされて、いよいよ玩具の出番だ。
「痛かったりしたら、すぐ教えてね」
「わかった」
いつもより念入りにほぐされたせいか、汗が止まらない。
「じゃあ、いれるよ」
遠慮がちに入ってくるそれは、当たり前だけれどいつもと違う。
どうしようもない異物感に、やっぱりあいつのが欲しいと思ってしまう。
「…っ」
「大丈夫?」
「だい、じょぶ」
「よかった。動かすよ」
「ん…っ」
大丈夫。だけど、なんか変だ。温かくないし。顔もいつもより遠い。
「…? ぅ、ああぁ…ばか、やめ、ろっ」
突然、玩具が振動し始めた。
「あれっ? ごめんね、スイッチ押しちゃった」
「っ――!」
…いってしまった。
どうしたらいい。
せっかく、いつもと違うことをしようとしてくれたのに、こんなにあっけなく終わってしまうなんて、申し訳ない。
「お、お前、今日いっぱい触ってきたから、なんか…」
焦って冷たい言葉が出てしまう。
しかし、返されたのは柔らかな笑みだった。
「よかったぁ。俺いつも余裕なくなって、すぐ終わっちゃうからさ。いつもと違うの、気持ちよかった?」
「…いつも、ちゃんと気持ちいい」
「ほんと? うれしーなぁ」
どんなステージでも見られないような、とろけた顔が視界を埋める。
それがとてつもなく愛しくて、まだ中で震えている玩具を締め付けてしまった。
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