今時の淫魔の事情 (Page 5)
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朝日が差し込み、小鳥の声がする、清々しい朝だ。
なんだか、悪い夢から解放されたように、体中に精気がみなぎっている。ライトは勢いよく起き上がり、寝ぼけたまま顔を洗い、コーヒーを淹れるためキッチンへ向かった。何やらいい香りがする。
「お、もう起きたのか?」
「ぎゃぁぁぁああああ?!」
ひょいとエプロン姿の男がフライパン片手に顔を出した。
そうだった、すべて思い出した。ライトは先程までの気分とは打って変わってあんたんたる表情で男に言い放った。
「なんでまだいんだよっ?!」
「うっさいなぁ、昨晩あんなに犯したのにずいぶんと元気だな。いや、違うか。だから元気なのか」
そういえば、体中かみ傷だらけのはずだったが、すっかり治っていた。これもこいつの精気をたんまりいただいたからだと思うと、腹立たしい限りだ。男の言うとおりではあるのだが、悔しいし納得いかないライトは仏頂面で顔を背けた。その先にはリビングのテーブルに何やらホカホカと湯気の立った料理が並んでいた。
「…何この飯?」
「勝手に冷蔵庫漁って作った。ほら食えよ」
男は持っていたフライパンからスクランブルエッグをひとさじすくい、ライトの口に突っ込んだ。
「……うまい」
「だろ?お前気づいてないみたいだけど…俺あのバーの裏手にあるレストランでコックしてるんだぜ」
「えっ、まじ?すごいよく行くんだけど」
「知ってる」
「知ってたのかよ?!」
「プンプンうまそうな匂いさせてる奴が、美味そうな顔して俺の作ったもん食べてればイヤでも気がつくわ」
「そう、だったのか」
「ほら、冷めないうちに食おうぜ」
「お、おう」
先程までの怒りもどこへやら、温かいご飯に釣られ向かい合って朝食を摂っているうちに、心も体も落ち着いてきた。目の前の男は、長い前髪を束ねて形のいい額を丸出しにしている。前髪で隠れていてわからなかったが、バーで見かけた時も好みだと思い、ライトから声をかけたのだった。
「うまいか?」
「うう、悔しいけどすごい美味い」
ガツガツと平らげるライトを見て男は満足そうだった。
「お前、名前なんて言うの?仕事は?」
「人に聞く前に名乗れよ」
「ふふっそうだな、俺はジンだ。さっきも言ったけど、あの店のチーフコックやってる」
「へぇ、だからこんな美味い飯作れんのか。…ライト。薬剤師」
「ははっ!だからあんなによく効くお薬作れちゃうわけ?」
そう言われて、昨晩の失態を思い出した。
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