恋の終わりは陽だまりの匂い (Page 6)
目を覚ますと、そこは陽だまりの中だった。
ぼんやりとした視界に目を擦りながら、暖かい匂いにそっと頬を寄せる。
「んん…」
ここ、どこだろう。
なんだかとても気持ちがいい。
優しく包まれていて、でも少しだけ、ドキドキする。
ぼんやりとしていると、チュ、と音を立てて、何かが額に落とされた。
チュ、チュ、と、それは何度も僕に降る。
しばらくしてそれが途切れると同時に、今度は優しい声が落ちてきた。
「センセ、起きた?」
「ん…、ん? え!?」
がば! と驚いて体を起こす。
ズキンと頭とお尻に痛みが走ったけれど、それどころではない。
僕は慌てて枕元の時計を確認した。
時刻は…午前の授業の30分前!
「やばいっ!」
「わ、まって、センセ、今日…」
「ごめんっ、僕講義あるからっ、えっと、これでお金払っておいて、おつり、いいからっ」
「センセ!? 今日っ」
「また、連絡するっ!」
そこら中に散らばった服を必死にかき集める。
昨日と同じシャツだけど、そんなところ誰も見ていないだろう。
僕は痛む体に鞭打って、ベッド脇にひっかかっているネクタイを掴もうと腕を伸ばした。
その時、ベッドにいる彼に腕をぐいと強く引かれた。
「わ…っ」
勢いよく彼の方に倒れてしまう。
彼の腕に抱きとめられて、僕は大きく息をのんだ。
…昨日のバーのこと。
優しく触れられたこと。
「ちょうだい」なんて自分から言ってしまったこと。
…それらを思い出して、身体が熱くなる。
固まっている僕の瞳を至近距離で覗き込んで、彼は、ちょん、と、僕の唇に触れるだけのキスをした。
「せんせ、俺、これで終わりなんて絶対ヤだから」
「え…?」
「好きってこと」
「…え、」
「あと、今日は休校日だよ」
「…あれ!?」
あはは、と彼が笑う。
僕は強く強く彼の胸に引き寄せられて、陽だまりみたいな匂いに包まれながら、混乱する頭の中でさっき言われたことを考えた。
「…すき?」
もう一度唇に落とされたキスは、少しだけお酒の匂いが残っていた。
Fin.
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