不機嫌な君と (Page 4)

「…誰にでもそうやって。――知り合いでもねぇジジイを背負って家まで届けるとかどういう神経だよ。腰押し付けやがって魂胆見え見えだろ、わかれよ。ていうか、店の常連も距離近すぎだろ。手ぇ握られたり抱き着かれたり、普通の客はそこまでしねぇんだよ。呑気に笑ってられる無神経さ、マジでムカつく」

一体どれについての指摘かわからないが、まさか困っている人を見捨てるわけにもいかない。背負うのが一番楽な姿勢だが…。
担ぐ…? いや、それは腹が苦しい。

店とは、森で採れた果物や間引いた獣の肉を売る直売所のことだろう。常連客は激励の握手やハグをしてくるが、馴染みの店でも同様だったので、普通だと思っていた。

「…そうか。君はいつも、私の非常識さにイライラしていたのか」

「まあ、そうだけど。おまえの言い方だと、なんか違って聞こえる」

ぶつぶつこぼすセラに、私は「だが」と続けた。

「君も突飛な行動に走る前に、これからは言葉で指摘してくれないだろうか」

「…おまえ、俺のことそんなバカだと思ってるわけ。違うだろ、なんで俺がこんなことしたかって、マジで気づかないのかよ!」

「? いや、私の非常識さに」

「おまえのその鈍感さはもう諦めた。…家に押しかけてセックスの相手横取りする意味なんて一つしかねぇだろ」

「ひとつ…」

「おまえが好きだからだよ! このバカ!」

そう叫んだセラの目には、再び涙が浮かんでいた。

「…好き? 私を、か?」

「…学生の頃からずっとだ」

驚きだ。そんな素振りあっただろうか。ぜんぜん思い当たらない。

「俺、前に言ったよな。いつでも都合あわせるから俺を呼べ、って」

「いや、すまない。そんな意味だとは…。社交辞令だと」

何度となくそう言ってくれるから、忙しいのに悪いと思って「頼む相手はいくらかいるから、無理はしてくれるな」と返して――。

「くっそ忙しい俺がっ、どうでもいい奴のために「いつでも」なんて言うわけねーだろ! それなのに、相手はいるからとかマジで空気読めてねぇ! そろそろ頼む頃だと思ってなんとか都合つけて帰ってみれば、別の男連れ込んでるし、帰れとか言うし…」

「いや、すまない。毎回キスだけだったし、あまり気が乗らないのだと思って」

「っ、そんなの、…」

「そんなの?」

「…キスから順番だろ。大事に、その、好きだから…。――言わせんなよ」

今私は、“ギャップ萌え”のかくあるべきを知った気がした。
思春期の少年でもあるまいし、成人した男が恥ずかしそうに言うセリフではないと重々承知しているが――。

「君、可愛いな」

ぽつり、そうこぼしてしまった。
とたんに、セラの額に青筋が浮かぶ。

「余裕かましてんじゃねぇよ。鈍感野郎。もう遠慮してやらねぇ」

どう猛な笑みを浮かべ、セラは私に覆いかぶさった。

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