新入社員の恍惚ランチタイム (Page 2)
「だけど、君に知られちゃったからね。だから、特別。ランチタイムに、この屋上を使ってもいいよ」
「えっ、でも…悪いですよ…」
僕が戸惑うと、男性は白い歯を見せて楽しそうに笑った。
「ははっ、遠慮しないで。俺は君のことが気に入ったんだ。たまに一緒にランチして、話し相手になってくれると嬉しいな」
「へ?まあ、別に構いませんけれど…」
見た目はカッコいいけど、変わってる人だな。
心の中でそんなことを思っていると、男性は唇の前に人差し指を立てた。
「この屋上のことは、二人だけの秘密だよ」
*****
その日以来、僕は屋上で昼食を取るようになった。
あのとき出会った男性――星崎直人さんと一緒のことが多い。
直人さん(名前で呼んでほしいと言われたので)は、このビルに入っている大手企業に勤めているそうだ。
若く見えたが実は35歳で、僕とは一回り歳が離れている。
「お弁当、手作りなんだね。たっくんは料理上手だな」
「はぁ…ありがとうございます」
だからだろうか、直人さんは僕のことを「たっくん」と呼ぶ。
名前が拓真だから、たっくん。
小学生のあだ名みたいだけど、この人に呼ばれると何故か悪い気はしない。
お弁当を食べた後は、よく仕事の相談に乗ってもらっている。
直人さんは仕事ができる人なのだろう、いつも的確なアドバイスをくれる。
ミスばかりでへこみがちな僕を優しく励ましてくれて、かなり元気づけられている。
いつしか僕は、直人さんに憧れるようになっていた。
「今日もいっぱい話聞いてもらっちゃって、すみません」
「気にしないで。新人さんは大変だよね。休みの日は息抜きできてる?」
「うーん…家でゴロゴロして終わっちゃいますね…」
気まずい思いで答えると、直人さんはイタズラっぽく微笑んだ。
「おや、一緒に過ごす恋人はいないのかな?」
「うう、仕事で頭がいっぱいで、恋愛どころじゃないんですよ…。直人さんはモテそうですよね」
こんなにカッコよくて優しいんだから、周りの人が放っておかないだろう。
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