カクテル言葉を貴方に~野外のイケナイ遊び~
気ままに訪れたバーで出会ったのは男物のスーツを綺麗に着こなしながらも足先を飾るハイヒールが良く似合うなんともアンビヴァレントな男、アキだった。彼と過ごす時間は楽しく、惹かれて行く。心の内をカクテル言葉に乗せ想いを伝え———。
「アタシだって別に好きでこうなったワケじゃないのよ」
目の前の小綺麗な男はくすくすと笑う。その所作はその辺の女性よりも美しく蠱惑的(こわくてき)で。
「じゃあ、アキさんに何があったんですか?」
そう問えば、彼は困ったように笑い———
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ほんの気紛れだった。その夜、たまたま———そう蝶が花に誘われる様に———俺はふらふらと見知らぬバーへと足を運んだのだった。
シックなジャズが流れる雰囲気の良いバーで、カウンター席に座ると「ソルティドッグを」とまずは頼む。気持ちネクタイを緩め、息をつきスマホを取り出す。ロックを外しスワイプし、アプリを起動して短文を送り付け画面を落とす。
すぐにスマホは震えだし着信を知らせるが、着信を拒否するとそのまま操作し、ブロックして連絡先を消す。番号も着信拒否して消した。
「ソルティドッグです」
そっと差し出されるグラス。グラスに口をつける。グラスの縁を飾る塩が美しく、舌を刺激するがすぐにグレープフルーツの甘さとウォッカの辛さが中和してくれる。そのさっぱりとした飲み口が心の泥を流す様で心地よい。
コツコツと小気味よいヒールの音が響き、背後に人の気配を感じた。女一人がバーに来たら良いカモだろうに、と思った瞬間「ジントニックをお願い」と低音が響いたものだから思わず振り返ってしまう。
そこに立っていたのは、前下がりのボブにパーマを当て、黒縁の眼鏡をかけた長身の顔の綺麗な男だった。自前のものだろう睫は長く、その唇にはしっかりと朱が引かれ、着ているものも男物の良いスーツだというのにその長い足先を飾るのはハイヒールで。アンビヴァレントな人だな、なんて明後日な感想を抱き。
「女だと思った?」
「あ、いや、すみません」
「ふふ、良いの。慣れているし」
「不快でしたよね、突然見られて」
彼はいいのいいのなんてカラカラと笑い、隣いい?と確認を取ると隣へ座った。
「ソルティドッグ…〈寡黙〉ね…何かあったのかしら」
「ああ、別に意味は…まぁ…何かあったにはあったんですが」
「ふぅん…それなら忘れて今を楽しみましょ。折角の縁だわ」
「そうですね」
その白い喉元が動くのをぼうっと眺めた。妙に艶めかしく、美しい彼の所作を。唇が離されたグラスに残る朱色の痕跡。酔っていたのかもしれないが、俺は確かに彼に惹かれたのだと思う。
「アタシはアキよ」
「あ、俺は真希です」
そうして出会った。
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