カクテル言葉を貴方に~野外のイケナイ遊び~ (Page 2)

 それから週に一度はそのバーで会い、飲むようになった。彼はいつも美しく良く笑ったが、その日は随分と静かだった。

 「ラスティネイルを」

 彼はそう告げ、座り込む。
最初に頼むカクテルとしてはかなり度数も高いし、何より一緒に飲むようになって興味の出たカクテル言葉を思い出し問いかける。

 「なにかあったんすか」
「あはは、駄目ねアタシが教え込んだんだからこんなのバレバレじゃない」

 そう言って笑い、その長い睫に縁どられた瞳を伏せた。

 「別にいつもの事なのよ。いつもみたいに心無い言葉を投げられただけ」
「アキさんは別にアキさんなんだからいいじゃないっすか。人一倍努力して仕事だって出来て。ほんの少し…人と違うからって」
「アタシだって別に好きでこうなったワケじゃないのよ」

 俺の言葉にくすくすと笑い、グラスを傾けその琥珀色の酒を口に含む。
かろん、と氷が音を立てた。
彼はグラスを置き、よく手入れの行き届き白く滑らかな指先でグラスの縁を、つつ、となぞった。そこに残るは桃色の痕跡。

 「じゃあ、アキさんに何があったんですか?」

そう問えば、彼は困ったように笑い、口を開いた。

 「だって、マキは意識して『男に成長する』って思った?」
「いえ…」
「つまりはそういう事。男に生まれたから男に成長するのは当たり前なのかもしれないけど。『当たり前』なんていうのは一個人の感想よね。アタシにとっての『当たり前』はこうしてメイクをしておしゃれをして、楽しむこと…。男だからするならプライベートな時間だけってのも変な話じゃない。女だってしたくない子はしたくないし、女がパンツスーツを着ていたってなにも言われないじゃない。流石にスカートは見苦しいかなとも思うし、アタシは格好良く素敵に見せたいだけなのに」

 その心に刺さる錆びついた釘と同じ名の酒を彼は飲み干す。はぁ、とその唇から漏れる吐息は熱っぽく、艶めかしい。

 「俺はアキさんカッコいいし綺麗だし好きっすよ」

 変に言葉を飾るより。素直に言葉に出した。その言葉に彼の目は丸くなり、そして気恥ずかしそうに眼を逸らす。

「マルガリータを」

 俺は贈る。マルガリータに込められた〈無言の愛〉を。

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