もしかして焦らしプレイだったんですか?!
香(かおる)は大学時代の先輩・慎介(しんすけ)と同居していた。新社会人の慎介は毎日疲れて帰宅する。以前に比べ恋人らしいことをめっきりしなくなったことに、寂しさを感じながらも一緒に暮らせるだけでいいと思っていた。そんなある日、くたくたに疲れて帰ってきた慎介にセックスに誘われて…。
「ただいま…」
どんよりと疲労感を背負った先輩が帰宅した。
香はベストタイミングだと、満足気にテーブルに並べた料理の数々を眺める。
ネクタイを外しながらリビングに入ってきたのは、同居している一つ年上の慎介先輩だ。
すらっとした長身には、スーツ姿が特に似合っていてかっこいい。
乱れた前髪が重たそうに伏せられた目元に落ち、彼の肩の力を抜いた姿を見せるのが自分だけだと思うと、香は幸福感を覚える。
慎介とは大学で出会った。香は今まで周囲にゲイであることを隠して生きてきた。慎介も同じように生きてきたと知り、やっと本来の自分として生きていける相手に出会えたと、必死な想いで告白したら、慎介も同じ気持ちだったようでトントン拍子で同居するまでになった。
最初は香の押しが強すぎるせいか、伸介が優しすぎるせいで、同居を同意したと思っていたが「実は一目惚れしてたんだよね。だから一緒に暮らせるの嬉しい」と照れた慎介に、本当に運命の相手だったんだとときめいたものだ。
一足先に社会人になった慎介は、新人で覚えることも多く毎日大変そうだ。
ソファに倒れ込んだ慎介。長い脚がはみ出している。香は一応声をかけた。
「ご飯どうする?」
「無理疲れた」
「だよね…」
今日は帰宅時間に夕食が出来上がり、出来立てを食べてもらえると喜んでいたが、慎介は連日一息ついてから食べていた。
わかっていたことだ。香はラップしとくかと、屈めていた身体を起こす。
「なにその格好」
「え?」
疲労感でぐったりしていた慎介は、やっと周囲に気を向けられるようになったのか、帰宅して初めて香を見た。
そして驚いた顔をしている。
なんのこと?と香は首を傾げる。近くに来てと手招きされ、素直にソファに近づく。
「履いてた…」
「そりゃあ履いてるよ」
ぺろんとエプロンの裾をめくった慎介は、さぞ残念そうに黒色のボクサーパンツを見つめている。
香は調理中、暑くなりズボンを脱いでいた。
正面から見たら、何も履いていないように見えたのだろう。
上着を着ているのに、下は履いてないのは変態じゃないかと思ったが、あまりにも気落ちした表情をしている慎介に、好みの恰好なんだろうかと考える。
「先輩って裸エプロンに萌えるの?」
「別に萌えない」
「ふうん?」
じゃあどうして残念そうな顔してるんだ?難問数式を出題された気分だ。
慎介は物事を現実的に考え、答えを出すタイプ。曖昧な発言はしない。
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